就業規則と賃金規程の作り方講座(書く・直す・届け出る・周知する)

区分3 条文を書く★★★

No.06 労働時間・休憩・休日の条文(変形労働時間制・移動時間)

訪問介護の会社が、就業規則の中でいちばん手直しを迫られるのが、時間の条文です。モデル就業規則の変形労働時間制の例は「1日の時間を固定する形」だけで、シフト表で日ごとに決める働き方の例が載っていません。この単元では、その穴の埋め方と、移動時間・待機時間を労働時間として書く条文を作ります。しっかり読む回です。
目次
  1. 第0章 前提知識
  2. 第1章 モデルの19・20条を読む
  3. 第2章 シフト表で日ごとに決める場合
  4. 第3章 移動時間・待機時間を労働時間として書く
  5. 第4章 休日労働・時間外・インターバル(21〜22条)
  6. 確認問題

第0章 前提知識

① 所定労働時間と法定労働時間 :会社が決めた時間と、法律の上限

所定労働時間とは、会社が「この時間働く」と決めた時間のことです。 法定労働時間とは、法律の上限のことで、1日8時間・1週40時間です(労基法32条)。

所定労働時間は、法定労働時間を超えて決められません。 超える場合は、次の②の変形労働時間制を使うか、時間外労働として扱います(時間外の協定はNo.15、割増賃金は労務講座のNo.07。時間外は2割5分以上の割増です)。

常時10人未満の事業場(会社の中の、1つの働く場所。みどり訪問介護なら事業所1か所)には、週44時間まで認められる特例があります(労基則25条の2)。 みどり訪問介護は12人ほどなので、この特例の対象ではなく、週40時間で考えます。

② 変形労働時間制とシフト表 :日や週によって労働時間を変える仕組み

変形労働時間制とは、一定の期間を平均して週40時間以内に収めれば、特定の日や週に、1日8時間・1週40時間を超えて働かせられる仕組みです。 この単元で扱うのは、期間が1か月以内の「1か月単位」です(労基法32条の2)。

定め方は2つあります。

シフト表とは、月ごとに、誰がどの日にどの時間帯で働くかを決めた表です。法律の言葉では「勤務割」と呼ばれます。

③ 似た言葉との違い

言葉 何のことか
休憩時間 労働から完全に離れ、自由に使える時間
手待時間 指示があればすぐ働くことを求められ、労働から離れられない待機の時間。労働時間になる

休憩は、労働時間の途中に、6時間を超えるなら45分以上、8時間を超えるなら1時間以上与えます(労基法34条)。 自由に使えない時間は、休憩になりません。

第1章 モデルの19・20条を読む

① モデルが載せている3つの型 さらっと

モデル就業規則(令和7年12月版。以下「モデル」)は、労働時間と休日の条(19・20条)に、3つの例を載せています。

例 型 時間の決め方
例1 完全週休2日制 週40時間・1日8時間。始業・終業と休憩を表で書く。交替勤務は別に定めるシフト表で、前月の○日までに通知する
例2 1か月単位の変形労働時間制 起算日から2週間ごとに平均して週40時間。1日の所定労働時間を7時間15分に固定し、隔週で週休2日にする
例3 1年単位の変形労働時間制 労使協定を結び、年間休日カレンダーで決める

大企業向けの細かい制度は、この講座では扱いません。例3も、訪問介護では使う場面が少ないので、ここでは名前だけ覚えれば足ります。

② 例2はそのままでは使えない 必ず覚える

例2は、1日の所定労働時間が決まっていて、休日の入る日も規則的です。 モデルの解説も、例2は1日の所定労働時間を固定しているが、業務の都合で日々の所定労働時間を変えることもできる、と書いています。 その場合も、1週あたりの平均を40時間以内に収め、変形期間の起算日、各日の始業・終業の時刻、各日・各週の労働時間を明確にしておく必要があります。

つまり、モデルには、シフト表で日ごとに決める型の条文例は載っていません。 訪問介護の正社員は、利用者の予約に連動して月ごとに勤務が変わるので、例2を埋めるだけでは、実態と規則がずれます。

第2章 シフト表で日ごとに決める場合

① シフト表運用で規則に書く6つ 必ず覚える

シフト表で運用する変形労働時間制について、決まっているのは次の3つです。

同じ労働局の資料には、「各勤務の始業・終業時刻、勤務の組み合わせの考え方、シフト表の作成手続と周知方法を就業規則に定める」という説明もあります。 一方で、勤務パターンを規則にどこまで書けば足りるかを決めた条文は、法律や国の資料にありません。

そこで、次の6つを規則に書き、運用で守ります。 守りの側に倒す理由は、後から未払いを請求されると高くつくからです。賃金の請求権は、当分の間3年さかのぼって行使できます(労基法115条・附則143条3項)。

書くこと 内容 条文例
① 起算日 変形期間(1か月)の始まりの日 第19条1項
② 勤務の種類 勤務の種類ごとの始業・終業時刻と休憩を表にする(別表) 第19条2項
③ 組み合わせの考え方 どの種類をどう並べるか(例:週に何日、最長何時間まで) 第19条3項
④ 作成の手続 誰がいつまでにシフト表を作るか 第19条4項
⑤ 周知 いつ、どんな方法で全員に示すか(変形期間の開始前まで) 第19条5項
⑥ 変更 示した後の変更は、本人の同意を得て行う 第19条6項

みどり訪問介護の別表の例です。

勤務の種類 始業・終業 休憩 実働
A勤務 8:30〜17:30 12:00〜13:00 8時間
B勤務 8:30〜18:30 12:00〜13:00 9時間
C勤務 9:00〜15:00 なし 6時間

第19条 1週間の所定労働時間は、毎月1日を起算日とする1か月を平均して、1週間当たり40時間以内とする。

2 勤務の種類ごとの始業・終業の時刻及び休憩時間は、別表1のとおりとする。ただし、休憩の時間帯は、利用者の予定により変わる日は、勤務表で日ごとに示す。

3 各月の勤務表は、勤務の種類を組み合わせて作り、1週間に勤務を命じる日は5日以内、1日の所定労働時間は9時間以内とする。

4 勤務表は、事業所の管理者が作成し、前月の20日までに会社に提出する。

5 各日の勤務の種類は、会社が勤務表により定める。勤務表は、変形期間の開始前までに、書面で労働者に示す。

6 示した勤務表の変更は、本人の同意を得て行う。

休憩の時間帯が利用者の予定で動く場合は、別表に時間帯を固定せず、2項ただし書きのように「勤務表で日ごとに休憩の時間帯を示す」と書きます。休憩の時間は、別表の「45分」「1時間」のように、長さだけを決めておきます。 勤務表の作り方や示し方の手続も、条文の中に入れておくと、運用が規則とずれません。

② 総枠を超えていないか確かめる さらっと

変形期間の所定労働時間の合計は、次の式の範囲に収めます(モデルの解説)。

40時間 × 変形期間の暦日数 ÷ 7

1か月の総枠は、31日の月で177.1時間、30日の月で171.4時間、29日で165.7時間、28日で160.0時間です(小数点第2位以下は省略)。

たとえば、31日の月に、すべて8時間の勤務で23日出勤すると、184時間になります。 総枠の177.1時間を超えるので、休みを増やすか、短い勤務(C勤務など)を混ぜて調整します。

③ 休日(20条)と、登録ヘルパーの場合 さらっと

休日は、毎週1回以上、または4週間を通じて4日以上与えます(労基法35条)。 4週4日にする場合は、4週間の起算日を、就業規則に書きます(労基則12条の2第2項)。

休日には、法定休日(法律で必ず与える休日。毎週1回、または4週で4日)と、所定休日(会社が決めた、それ以外の休日)があります。 介護事業者向けの資料(2017年)には、月20日出勤で週40時間は守れていても、法定休日が4週で2日しかないシフトは違法、という例が載っています。 休日の振替をする時は、規則に振替の規定を置きます。 振替日を特定し、4週4日が確保できる範囲でできるだけ近い日にし、前日までに通知します(モデル20条の解説)。

第20条 休日は、勤務表により、4週間を通じて4日以上与える。4週間の起算日は、○年○月○日とする。

登録ヘルパーのように、1日の勤務が8時間に届かず、週40時間にも届かない人は、法定を超える日や週が出ません。 その人たちには、変形労働時間制は要りません(条文からの当てはめです)。 ただし、勤務時間が勤務表で決まる人には、別の扱いがあります。 通達(厚生労働省が労基署などに出す、法律の解釈や運用を示した文書)が、労働条件の明示について次のように示しています。 勤務の種類ごとの考え方を示し、適用される就業規則の関係条項名を網羅的に示し、契約締結時の勤務表を示すことで足りる、という内容です。 登録ヘルパー用の別の規則に、この考え方を短く書きます。

登録ヘルパー就業規則 第○条(勤務の定め)
勤務の種類ごとの始業・終業の時刻、休憩及び賃金の考え方は、労働条件通知書に示す。
2 訪問の日時は、契約締結時に、勤務表により書面で示す。
3 この規則のうち適用される条は、労働条件通知書に条名を示す。

第3章 移動時間・待機時間を労働時間として書く

① 通達が労働時間と言っているもの さらっと

「訪問介護労働者の法定労働条件の確保について」(平成16年8月27日 基発第0827001号)は、次のように示しています。 利用者宅への直接の介護の時間以外にも、労働時間になる時間があります。

時間 労働時間になる場合
移動時間 事業場・集合場所・利用者宅の相互間を、使用者が命じて移動し、自由に使えない時間。通常の移動に要する程度の時間なら当たる
業務報告書の作成 制度や社内規定で義務付けられ、使用者の指揮監督のもとで行う時間
待機時間 使用者が待機を命じ、自由に使えない時間
研修 明示の指示がある時、または出席が実質的に強制される時

賃金も、これらを通算した時間で計算します。 直接介護と移動の単価に差をつけるのは労使で決めてよいのですが、最低賃金を下回ってはいけません(通達)。賃金の書き方はNo.11と、訪問介護の賃金講座のNo.11で扱います。

② 条文例 必ず覚える

通達の言い方を、規則の条文に直します。

第○条 労働時間には、利用者宅での訪問介護の時間のほか、次の時間を含む。

① 事業所、集合場所及び利用者宅の相互間を、会社の指示により移動する時間(通常の移動に要する時間)

② 会社が待機を命じ、自由に利用できない時間

③ 会社が義務付けた業務報告書等の作成時間

④ 会社が指示した研修の時間

2 利用者宅の間の空き時間のうち、会社が事業所等での待機や連絡対応を求めず、自由な利用を認めた時間は、休憩時間とする。

3 労働時間の記録の方法は、第○条(始業及び終業時刻の記録)に定める。

始業・終業時刻の記録の条文は、No.08の第1章②「始業・終業時刻の記録(17条)」で扱います。

③ 判断が分かれる3つの場面の扱い さらっと

次の3つは、法律や国の資料に決まりが無いので、払いすぎる側・守りの側に倒して運用します。 迷う時の確認先は、社労士です。

論点 決まっている所 扱い
自宅と最初・最後の利用者宅の間の移動 通達の移動時間は「事業場、集合場所、利用者宅の相互間」。自宅は書かれていない 条文に「自宅との間は含まない」と書く前に、実態(立ち寄りの指示の有無)を確かめる。迷う間は労働時間として扱う
移動の賃金を定額にする時 通達は、直接介護と移動の単価に差をつけてよいが、最低賃金を下回ってはいけないとする。定額の書き方の決まりは無い 実際の移動時間が定額分を超えたら、超えた分を払うと書く
空き時間を休憩に数えてよいか 休憩は自由に使える時間で、労働時間の途中に与える(労基法34条) 自由な利用が実際に保障されている時間だけを休憩とする。社労士か労基署に聞く

第4章 休日労働・時間外・インターバル(21〜22条)

① 時間外・休日労働とインターバル 深追いしない

法定労働時間を超える労働や、法定休日の労働を命じるには、36協定(時間外・休日労働についての労使協定。労基法36条)を結んで届け出ることが必要です。 規則には、「協定の範囲で命じることがある」と書きます。協定の作り方はNo.15で扱います。

勤務間インターバル制度は、終業から次の始業までに、一定の休息時間をあける仕組みです。 事業主の努力義務(守れるよう努めることが求められるが、守らなくても罰則にはならない決まり)なので、入れなくても違反ではありません(モデル22条の解説)。夜間の対応がある会社だけ、検討すれば足ります。

○ よくある勘違い①:シフト表で働く日を決めているから、変形労働時間制になっている → 起算日・勤務の種類・手続などを規則や協定に書いていなければ、1日8時間を超えた分は時間外労働になる(第2章①)
○ よくある勘違い②:移動の実費の交通費を払っているので、移動時間の賃金は要らない → 労働時間になる移動には賃金が要る。実費の交通費は賃金に数えない(第3章①)
○ 関係する単元:No.15(36協定・変形労働時間制の届出)/No.11(移動の賃金の書き方)

モデルの例2は1日固定の型なので、シフト表で決めるなら、起算日・勤務の種類の別表・作成と周知の手続を自分で書く。変形期間の合計は、40時間×暦日数÷7の総枠以内。移動・待機・報告書・研修は、条件に当たれば労働時間として条文に書く。

自社の規則づくりシートに書くこと
・欄①(直す条文と新旧対照):19条・20条と、移動・待機の条を、今の条文と並べて新旧対照の行にする
・欄③(賃金規程の条文):移動時間・待機時間の賃金を、どの条に書くかの印をつける
・欄④(意見書・届出・周知の段取り):変形労働時間制を協定にするか規則だけにするかを書く
・欄⑤(社労士に聞くこと):シフト表運用の要件、休憩の時間帯の書き方、自宅と利用者宅の間の移動

確認問題

問1 みどり訪問介護の正社員が、31日の月に、すべて8時間の勤務で23日出勤するシフト表になっています。1か月単位の変形労働時間制の総枠について、正しいのは?

問2 利用者宅Aの訪問を終えて、会社の指示でそのまま利用者宅Bへ、通常の移動時間である20分をかけて移動しました。この20分の扱いは?

問3 モデル就業規則の1か月単位の変形労働時間制の例(例2)について、正しい説明は?

出典:労働基準法32条・32条の2・34条・35条・36条(https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049)/労働基準法施行規則12条の2・25条の2(https://laws.e-gov.go.jp/law/322M40000100023)/厚生労働省 モデル就業規則(令和7年12月版)19〜22条と解説(https://www.mhlw.go.jp/content/001620507.pdf)/「訪問介護労働者の法定労働条件の確保について」平成16年8月27日基発第0827001号(https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb5448&dataType=1&pageNo=1)/「介護労働者の労働条件の確保・改善のポイント」(2017年。制度の細かい数字が今と違う所があるため、勤務割の特定と法定休日の考え方だけを使用。https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000064728.pdf)。確認日 2026-11-04。労基法は2026年7月17日施行の版、労基則は2026年4月1日施行の版で確認。みどり訪問介護株式会社は架空の会社で、条文は例です。