就業規則と賃金規程の作り方講座(書く・直す・届け出る・周知する)

区分4 賃金規程を書く★★★

No.12 昇給・賞与の条文(約束になりすぎない書き方)

昇給と賞与は、どちらも書き方しだいで「払う約束」の重さが変わる所です。この単元は、約束になりすぎない条文の書き方と、登録ヘルパーとの差の書き方を、条文の例で確かめます。規程を作る時と、毎年の昇給・賞与の前に読み返す回で、しっかり読みます。
目次
  1. 第0章 前提知識
  2. 第1章 昇給の条文
  3. 第2章 賞与の条文
  4. 第3章 処遇改善との境目
  5. 確認問題

第0章 前提知識

① 昇給とベースアップ :1人ずつ上がることと、賃金表ごと上がること

昇給は、1人ひとりの基本給が上がることです。決まった時期に決まったルールで上がる物が、定期昇給です。 ベースアップは、賃金表そのものを書き換えて、全員の賃金を引き上げることです。この単元で扱うのは昇給で、ベースアップは別表を直す話です(No.11)。

号俸は、賃金表の1段のことです。1号俸上がると、基本給が○円上がります。

② 賞与と算定対象期間 :業績などで決める一時金と、その額を決める期間

賞与は、会社の業績や本人の勤務などを見て決める一時金で、ボーナスのことです。 算定対象期間は、賞与の額を決める対象になる期間です。支給日は、実際に払う日です。賞与の支給日に在籍している人にだけ払う決まりを、支給日在籍要件と言います。

③ 似た言葉との違い

言葉 何のことか どの階か
昇給 基本給が上がる。財源は本体 1階(No.11)
処遇改善手当の見直し 加算の増減に合わせて、2階の額を動かす 2階(No.11)
賞与 業績などで決める一時金。本体から払う 1階
処遇改善一時金 加算を年度内に配り切るための一時金 2階(No.11)

昇給と賞与は、条文の書き方に共通点があります。どちらも、規程に書いた事が、会社の約束になり得ることです。

第1章 昇給の条文

① 昇給は必ず書く事 必ず覚える

昇給に関する事項は、就業規則に必ず書く事柄です(労基法89条2号)。労基法は労働基準法の略です。 モデル就業規則の解説は、昇給の時期など、昇給の条件を定める必要があるとしています。

雇い入れる時の明示では、昇給は書面で渡す義務から外れています(労基法の施行規則5条)。 ただし、パート・有期の人(登録ヘルパーを有期や短時間で雇う場合)には、昇給の有無を文書で明示する決まりがあります。パートタイム・有期雇用労働法(以下「パート有期法」)6条の決まりです。規程に書くことと、雇い入れる時の文書は、別々に整えます。

② 約束になりすぎない書き方 必ず覚える

昇給の書き方は、3段階あります。

書き方 例 約束の重さ
ア 「毎年4月に、1号俸昇給する」 重い。業績が悪い年に、守れなくなる
イ 「毎年○月に、基準に基づいて昇給を判定する」 軽い。時期と基準だけを書く
ウ イに「業績の著しい低下などの場合は、行わないことがある」を足す(モデル就業規則の型) 軽い。例外も書いてある

書くのは、いつ、どんな基準で判定するかの仕組みです。金額や回数は、条文に書きすぎません。 ここからは法律の決まりではなく、実務のすすめです。

みどり訪問介護(架空の会社)の第10条は、イの判定の仕組みに、ウの例外を足した形です。

第10条(昇給)
1 昇給は、毎年4月1日に、別表第1及び別表第2の号俸を上げる方法で行う。ただし、会社の業績の著しい低下その他やむを得ない事由がある場合は、行わないことがある。

2 昇給の対象は、毎年3月31日までに引き続き1年以上勤務している正社員、契約社員及び登録ヘルパーとする。この期間には、契約社員として勤務した期間を含める。

3 会社は、毎年3月に、別表第4の評価項目により評価を行い、その合計点により、昇給の号俸数を次のとおり決定する。
合計点10点以上:2号俸 / 7点から9点:1号俸 / 6点以下:昇給なし

4 号俸の上限を超えて昇給することはない。評価の結果は、本人に通知する。

別表第4(昇給の評価項目) 各項目を3点・2点・1点で付け、4項目の合計(4〜12点)で見ます。

項目 3点 2点 1点
訪問記録の提出 期限内に毎回提出した 期限を過ぎたのが年に1〜2回 年に3回以上
研修への参加 計画した研修に全て参加した 1回欠席した 2回以上欠席した
利用者・家族からの苦情 事実と確認された苦情がない 1件ある 2件以上ある
職員への連絡・報告 決めた方法と期限で、毎回行った 遅れたのが年に1〜2回 年に3回以上

評価の基準は少なく、誰が見ても同じ点になる物に絞ります。評価をする人が1人しかいない事業所では、基準が曖昧だと不公平だという不満につながるからです。 2項の「契約社員として勤務した期間を含める」は、会社が決める事です。最初の3か月の契約社員の期間を数えるかどうかは、先に決めて書いておきます。

③ キャリアパス要件Ⅲに合わせる さらっと

処遇改善加算のキャリアパス要件Ⅲは、昇給の仕組みを、就業規則などに書いて周知することを求める要件です。次のどれかを書きます。

型 中身 条文で気をつける所
a 経験 勤続年数・経験年数に応じて昇給 登録ヘルパーも対象に入れる
b 資格 資格に応じて昇給 他の法人で資格を取ってから入職した人も対象に入れる
c 評価 一定の基準で、定期に昇給を判定する 評価の基準・昇給の条件・判定の時期を書く

第10条は、2項(1年以上の勤務)がa、3項と別表第4がcにあたります。 非常勤を含む全ての介護職員が対象になり得る仕組みにする決まりがあるので、2項に登録ヘルパーを入れています。 ウの例外(業績が悪い年は行わない)が、要件の「仕組み」と合うかは、指定権者(事業所を指定した市や都道府県)か社労士(社会保険労務士)に確認してください。

第2章 賞与の条文

① 義務はないが、書けば約束になる さらっと

賞与は、労基法に払う義務の規定がありません。 でも、賞与を定める場合は、就業規則に書く事柄です(89条4号)。毎月払う原則から外れるのは、臨時の賃金等に当たるからです(24条2項ただし書)。

書いた賞与は、約束になります。 規程に額や計算方法の決まりがない賞与は、会社が額を決めた時に初めて、具体的に請求できる権利になります。福岡雙葉学園事件(最高裁、2007年12月18日)の判決の考え方です。 逆に言うと、額や計算式を規程に書くと、払う約束と受け取られやすくなります。

② 支給しないことがある、と支給日在籍 必ず覚える

みどり訪問介護の賞与の条は、モデル就業規則の型に、支給日在籍を足した形です。

第11条(賞与)
1 賞与は、算定対象期間に在籍し、かつ支給日に在籍している正社員に対し、会社の業績等を勘案して、支給日に支給する。ただし、会社の業績の著しい低下その他やむを得ない事由により、支給時期を延期し、又は支給しないことがある。

2 算定対象期間と支給日は、次のとおりとする。
夏季:12月1日から5月31日まで / 支給日 7月10日
冬季:6月1日から11月30日まで / 支給日 12月10日

3 賞与の額は、会社の業績、労働者の勤務成績、勤務の状況などを考慮して、各人ごとに会社が決定する。

賞与の条は、支給の有無と時期を書き、額は会社が決めると書きます。金額や計算式は書きません。 ここからは法律の決まりではなく、実務のすすめです。額や計算式まで書くと、払う約束と受け取られやすいからです。書き方は社労士に見てもらってください。

支給日在籍は、大和銀行事件(最高裁、1982年10月7日)が認めた考え方です。 支給日に在籍する人にだけ賞与を払う決まりを、就業規則に書くのは合理的だ、という判決です。支給日の前に退職した人が、算定対象期間の賞与を請求しましたが、認められませんでした。 書いてあれば、支給日に在籍していない人に払わない扱いができます。書いていなければ、この考え方は使えません。

③ 登録ヘルパーとの差 さらっと

第11条1項は「正社員」に対する賞与にしてあります。登録ヘルパーをどうするかは、2つの書き方があります。

例A 4 登録ヘルパーには、この条の賞与を適用しない。

例B 4 登録ヘルパーの賞与の額は、算定対象期間の稼働時間と勤務の状況を考慮して、会社が決定する。

パート有期法は、基本給・賞与などの待遇のそれぞれについて、不合理な差を設けてはならないとしています(8条)。 求められたら、正社員との待遇の差の内容と理由を、説明する義務もあります(14条2項)。国が不合理な差の例を示した「同一労働同一賃金ガイドライン」は改正され、2026年10月1日から適用です。会社の業績への貢献が同じなら、同じ額の賞与を払うよう求めています。

アルバイトに賞与を払わないことを、この事案では不合理とは言えない、とした判決があります(大阪医科薬科大学事件、最高裁、2020年10月13日)。ただし、事案の事情で結論が変わります。 どちらの書き方にするかは、No.04の考え方で決めます。判定は、次のとおりです。

どちらにするか迷う時は、社労士に確認します。

第3章 処遇改善との境目

① 昇給と処遇改善手当を分ける さらっと

昇給は、1階の基本給の話です。財源は本体から考えます。 処遇改善手当は、2階の話です。第9条(No.11)で、加算の増減に合わせて見直します。昇給の条(第10条)に、加算の増減を書かないのは、このためです。

② 賞与と処遇改善一時金を分ける さらっと

賞与の条(第11条)と、処遇改善一時金の条(第8条)は、別の条にします。明細の項目も別にします。 国のQ&Aは、業績に連動する賞与の変動は妨げないとしたうえで、加算による賃金改善とは明確に分けるよう求めています。 基本給を上げても、賞与を下げて賃金全体の水準が下がると、特別事情届出書が要ります。業績が悪い年に賞与を減らす時は、この点も確かめます。

○ よくある勘違い:「ベースアップをしたから、昇給の条は要らない」→ ベースアップは別表の書き換えで、昇給の条は別に要ります
○ よくある勘違い:「パートには賞与を払わなくてよい」→ 不合理な差は禁止で、求められたら説明が要ります。判例は事情で分かれます
○ 関係する単元:No.04(人ごとの契約)/No.10(賃金規程の章立て)/No.11(処遇改善手当・一時金)

昇給は必ず書く事柄で、時期と基準の仕組みだけを書き、金額と回数は書かない。賞与は、支給の有無と時期を書き、額は会社が決めると書く。支給日在籍は、書いてあれば使える。登録ヘルパーに賞与を払わないなら、理由を説明できるようにしておく。

自社の規則づくりシートに書くこと
欄③「賃金規程の条文」に、昇給の条(時期・判定の基準・対象に登録ヘルパーを入れること)を書きます。
賞与の条(算定対象期間・支給日・支給日在籍・登録ヘルパーの扱い)も書き、別表第4にあたる評価項目の表を付けます。
欄②「試用期間と人ごとの契約の一覧」には、最初の3か月の契約社員の期間を、昇給の勤続と賞与の算定対象期間に数えるかを書きます。
欄⑤「社労士に聞くこと」に、「行わないことがある」が昇給の仕組みの要件と合うか、登録ヘルパーに賞与を払わない理由の書き方を書きます。

確認問題

問1 昇給の条文を、約束になりすぎない形にします。正しいのは、次のうちどれですか。

問2 規程に「賞与は、支給日に在籍している者に支給する」と書いてある会社で、算定対象期間に働いたが、支給日の前に退職した人の賞与は、どう扱えますか。

問3 賞与を正社員にだけ払い、登録ヘルパーには払わない(例A)会社の対応として、正しいのは、次のうちどれですか。

出典(確認日 2026-11-04):e-Gov(国が法令の原文を公開しているサイト) 労働基準法24条・89条(https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049)、労働基準法施行規則5条(https://laws.e-gov.go.jp/law/322M40000100023)、パートタイム・有期雇用労働法6条・8条・14条(https://laws.e-gov.go.jp/law/405AC0000000076)/厚生労働省「モデル就業規則」令和7年12月版(49条・50条とその解説、https://www.mhlw.go.jp/content/001620507.pdf)/厚生労働省「同一労働同一賃金ガイドライン」改正後の本文(2026年10月1日適用、https://www.mhlw.go.jp/content/11909000/001696696.pdf)/厚生労働省「確かめよう労働条件」賞与の判例(福岡雙葉学園事件・大和銀行事件、https://www.check-roudou.mhlw.go.jp/hanrei/chingin/syouyo.html)/厚生労働省の解説資料(大阪医科薬科大学事件、https://www.mhlw.go.jp/churoi/roushi/dl/R030222-2.pdf)/令和8年度の介護職員等処遇改善加算の基本的考え方の通知(老発0313第6号、https://www.mhlw.go.jp/shogu-kaizen/download/6_tsuuchi_kihontekikangaekata_jimushoritejun.pdf)と同Q&A第1版(介護保険最新情報Vol.1479、https://www.city.shinjuku.lg.jp/content/000451055.pdf)。みどり訪問介護の条文と評価項目は、この講座で作った架空の例です。