就業規則と賃金規程の作り方講座(書く・直す・届け出る・周知する)
区分1 規則の地図★★★就業規則とは、労働時間・休み・賃金・辞める時の手順など、職場の働き方を会社が文書にまとめたルールのことです。 決めるのは会社(法律の言葉では使用者。労働者を使って事業をする人のこと)で、働く人1人ずつと結ぶ契約とは別に、全員に同じ基準を示す役目があります。
労務講座のNo.10では、作成と届出の義務や、不利益変更の考え方を扱いました。 この単元では、その土台に当たる「規則がどう効くのか」と「別に作る規程の扱い」を、規則を書く側の目線で見ていきます。
混ざりやすい言葉を、先に分けておきます。
| 言葉 | 何のことか |
|---|---|
| 就業規則 | 職場の働き方のルールの全体。賃金規程などの別規程も含みます |
| 規程 | 就業規則の一部を、別の名前の文書にしたもの。賃金規程・育児・介護休業規程など |
| 労働契約 | 会社と労働者1人ずつの約束 |
| 労働条件通知書 | 契約を結ぶ時に、労働条件を本人に書面で伝える書類 |
| 労使協定 | 会社と、労働者の過半数を代表する人が書面で結ぶ約束。36協定(残業をさせるための約束)が代表例 |
| モデル就業規則 | 厚生労働省が公開している手本。法律ではありません(No.02で扱います) |
規程は「就業規則とは別の決まり」と思われがちですが、そうではありません。 別の名前で作っても、就業規則の一部です。この点が、この単元でいちばん大事な所です。
労契法7条は、労働者を雇う時に、合理的な内容の就業規則を周知していれば、その就業規則の内容が労働契約の内容になる、と定めています。 個別に就業規則と違う約束をした部分は、その約束が優先されます。ただし、就業規則を下回る約束は優先されず、その部分は無効です(労契法12条。無効になった部分は、就業規則の基準になります)。
つまり就業規則には、2つの役目があります。
就業規則に書いた事は、働く人との約束になります。 書いてあることは、会社の自由な心づもりではなく、守る約束です。だから、守れない内容を手本のまま書かないこと、実態と違う内容を書かないことが、条文づくりの前提になります。
周知とは、働く人がいつでも内容を知ることができる状態にしておくことです。 作っただけでは効力は生じません。効力が生じるのは、周知された時期以降で、施行期日(決まりが実際に使われ始める日)を決めていればその日です。 周知の具体的な方法は、No.16で扱います。
常時10人以上の労働者を使う会社は、就業規則を作って、労基署に届け出る義務があります(労基法89条)。 訪問介護の通達(厚生労働省が労基署などに出す、法律の解釈や運用を示した文書。平成16年8月27日 基発第0827001号)は、この10人に、短時間の労働者も数えるとしています。
みどり訪問介護(架空)を例にします。 正社員5人と、雇用契約を結んだ登録ヘルパー7人で、合わせて12人です。10人を超えているので、届出の義務があります。
規則には、必ず書く事と、定めをするなら書く事があります。
賃金と昇給が「必ず書く事」に入っていることは、区分4(賃金規程)で重要になります。
モデル就業規則は、賃金を「就業規則本体とは別に定めることもできます」としています。 そのうえで、別に定めた規程も就業規則の一部になるので、労基署への届出が必要だと書いています。 育児・介護休業規程も同じです。厚生労働省の育児・介護休業の規定例の冊子には、別規則にしても就業規則であることに変わりはなく、作成・変更をしたら届け出なければならない、とあります。
書き方の型は、次のとおりです。
別規程も就業規則の一部なので、作る時も変える時も、意見を聴く・届け出る・周知する、という手順が同じようにかかります。 「賃金規程だけ直したから届出はいらない」とはなりません。この手順は、No.13〜16で扱います。
就業規則は、全ての労働者について作る必要があります。 厚生労働省の資料(2017年)は、全員に共通の規則にするか、正社員用とパート用を別に作るなどして、全ての労働者についての規則を整えるよう求めています。
モデル就業規則は、主に正社員を想定して作られています。 パート・有期の人を適用から外す場合は、本体にその旨を書いたうえで、その人たちに適用する規則(別の就業規則)を作る必要があります。 厚生労働省は、パート・有期雇用の人のための規定例も公開しています。1条で「本体の就業規則第○条に基づき」と委任を受ける型になっています。
パート有期法(パートタイム・有期雇用労働法。短時間労働者・有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律)7条は、パート・有期の人に関する規則を作る時の決まりです。 その人たちの過半数を代表する人の意見を聴くよう努めなさい、と定めています。 これは努力義務(守れるよう努めることが求められるが、守らなくても罰則や無効にはならない決まり)です。全労働者の過半数を代表する人の意見を聴く義務(労基法90条)は、別に残ります。
みどり訪問介護の規則の組み合わせは、たとえば次のようになります。
| 文書 | 誰に適用するか | 本体との関係 |
|---|---|---|
| 就業規則(本体) | 正社員 | |
| 登録ヘルパー・パート用の就業規則 | 登録ヘルパー、短時間のパート | 本体の「別に定める」に基づく |
| 賃金規程 | 上の全員(別表で分ける) | 本体の「別に定める」に基づく |
| 育児・介護休業規程 | 上の全員 | 本体の「別に定める」に基づく |
契約社員(最初の3か月)をどの文書に入れるかは、No.03で扱います。
○ よくある勘違い:賃金規程は就業規則ではないので、直しても届出は要らない → 別規程も就業規則の一部で、作成・変更のたびに届出が要る
○ 関係する単元:No.02(手本の使い方)/No.13(変更のルール)/No.14〜16(意見書・届出・周知)
就業規則に書いた事は、周知されれば契約の中身になり、下限にもなる。賃金規程や育児・介護休業規程は別の文書でも就業規則の一部で、届出も周知も要る。正社員用だけでなく、全員に適用される規則を整える。
自社の規則づくりシートに書くこと
○ ①の欄:自社の規則の適用範囲の条に「パート・登録ヘルパーは別に定める」と書いてあるか。書いてあれば、その別規則が本当にあるか
○ ⑤の欄:自社の規則と規程の一覧(何があり、いつ届け出たか)を書き、分からない所を問いの形で
問1 みどり訪問介護は、賃金のルールを「賃金規程」という別の文書にまとめました。この賃金規程について、正しいものはどれですか。
問2 会社が就業規則を作って労基署に届け出ましたが、従業員にはまだ見せていません。この就業規則の効力はどうなりますか。
問3 登録ヘルパーの雇用契約書に、就業規則の時給の基準より低い時給が書かれ、本人も署名しています。この低い時給の部分はどう扱われますか。
出典:労働契約法(https://laws.e-gov.go.jp/law/419AC0000000128)7条・12条/労働基準法(https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049)89条・90条/パートタイム・有期雇用労働法(https://laws.e-gov.go.jp/law/405AC0000000076)7条/モデル就業規則(令和7年12月版 https://www.mhlw.go.jp/content/001620507.pdf)の第6章冒頭・2条・28条の解説/パート・有期雇用労働者用の規定例(https://www.mhlw.go.jp/content/11650000/000815923.pdf)/「就業規則における育児・介護休業等の取扱い」(https://www.mhlw.go.jp/content/11909000/001662495.pdf)/「訪問介護労働者の法定労働条件の確保について」平成16年8月27日基発第0827001号(https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb5448&dataType=1&pageNo=1)/「介護労働者の労働条件の確保・改善のポイント」2017年(https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000064728.pdf)。確認日 2026-11-04。労基法は2026年7月17日施行の版、労契法は2020年4月1日施行の版、パート有期法は2026年10月1日施行の版で確認。