就業規則と賃金規程の作り方講座(書く・直す・届け出る・周知する)

区分2 契約の形を選ぶ★★★

No.04 人によって契約を変えてよいか(個別の合意・就業規則・同一労働同一賃金)

同じ仕事をしているのに、ヘルパーによって時給や手当が違う。そのこと自体は、問題とは限りません。この単元は、人ごとに契約を変えてよい範囲と、変えてはいけない5つの線を分けて、訪問介護でよくある場面の可否を表にします。
目次
  1. 第0章 前提知識
  2. 第1章 変えてよい事(個別の合意)
  3. 第2章 変えてはいけない5つの線
  4. 第3章 訪問介護でよくある場面の可否
  5. 第4章 人ごとの契約の一覧を作る
  6. 確認問題

第0章 前提知識

① 個別の合意 :会社と本人が、1人ずつ話し合って決める条件

個別の合意とは、会社と労働者が、その人だけに当てはまる条件を話し合って決めることです。 時給、働く時間、手当などを、就業規則の基準とは別に、人ごとに決める場面で使われます。

法律は、まず合意で決めることを原則にしています。 労契法3条1項は、労働契約は、労働者と使用者(会社)が対等の立場で、合意によって結んだり変えたりするものだと定めています。

ただし、合意があれば何でも決められるわけではありません。 この単元の中心は、「合意で決めてよい範囲」と「合意でも決められない線」の分け方です。

② 似た言葉との違い

混ざりやすい言葉を、先に分けておきます。

言葉 何のことか
就業規則の基準 全員に当てはまる、会社の決め事。個別の契約が下回れない下限になる
個別の契約(合意) 人ごとの約束。就業規則を上回る内容なら有効
不合理な待遇差の禁止 正社員とパート・有期の人の待遇に、理由のない差をつけてはいけない決まり。パート有期法(パートタイム・有期雇用労働法)8条
差別的取扱いの禁止 正社員と同じに扱うべきパート・有期の人を、不利に扱ってはいけない決まり(パート有期法9条)。性別を理由にした差別は、均等法(男女雇用機会均等法)6条が禁じる
待遇 基本給・賞与・手当・休暇・福利厚生など、働く人が受ける扱いの全部

通常の労働者とは、いわゆる正社員のことです。 短時間労働者はパート、有期雇用労働者は期間の定めのある契約の人を指し、登録ヘルパーも、有期か短時間で雇っていれば、この2つに当たります。

第1章 変えてよい事(個別の合意)

① 就業規則を上回る合意は有効、下回る合意は無効 必ず覚える

就業規則と個別の契約の関係は、次のとおりです。

個別の合意で変えてよいのは、就業規則の基準を下回らない範囲だけ。

みどり訪問介護(架空)の例です。 賃金規程の別表第2(No.11)に、中級1号俸の時給が1,600円と書いてあるとします。 D・E・Fさんは、登録ヘルパーです。Fさんは中級1号俸の基準に当たります。

個別の契約 扱い
Dさん(中級6号俸)の時給を1,700円にする 有効(Dさんの基準は1,700円。同じ額)
Eさん(中級1号俸)の時給を1,650円にする 有効(基準1,600円を上回る)
Fさん(中級1号俸)の時給を1,500円にして、本人が署名した 1,500円の部分は無効。1,600円が適用される

つまり、ヘルパーごとに時給が違うこと自体は、問題ありません。 基準より下に書いた契約が、そのまま通用しなくなる点に気をつけます。

② 個別に変える時の記録の残し方 さらっと

労契法4条2項は、労働契約の内容(有期契約の事項も含む)を、できる限り書面で確認するよう定めています。 個別に条件を変える時も、変えた内容と、説明した経緯を、書面に残しておきます。

不利益な方向に変える場合は、特に注意が要ります。 労契法8条は、労働者と使用者の合意で労働条件を変えられると定めています。 ただし、賃金や退職金を下げる変更への同意は、本人が受け入れる行為をしたかどうかだけでは決まりません。 不利益の内容と程度・経緯・事前の説明に照らして判断されます。 本人が自由な意思で同意したと認める合理的な理由が、客観的にあるかどうかも判断の基準です(山梨県民信用組合事件、最高裁平成28年2月19日。「労働契約法のあらまし」の記載)。

ここからは法律の決まりではなく、実務のすすめです。 安全な扱いは、条件を変える時、変えた内容と日付を書いた書面を本人に渡して、受け取りの記録を残すことです。

なお、有期契約を更新する時は、訪問介護の通達(厚生労働省が労基署などに出す、法律の解釈や運用を示した文書。平成16年8月27日 基発第0827001号)が、更新のたびに労働条件を改めて明示するよう求めています。

③ 就業規則を直さずに、契約だけ直し続けると さらっと

厚生労働省の訪問介護員向けの資料(2014年)は、次のように注意しています。 就業規則を見直さないまま労働契約だけを直し続けると、就業規則を下回る部分は無効になります。その結果、就業規則の水準まで引き上がります。 個別の合意が増えるほど、基準を決める規則を直す必要があります。直し方は、No.13で扱います。

第2章 変えてはいけない5つの線

① 5つの線の一覧 必ず覚える

人ごとに契約を変えても、次の5つの線は越えられません。

線 内容 根拠
1 就業規則を下回らない 個別の合意でも、就業規則の基準より下げられない 労契法12条
2 最低賃金を下回らない 下回る契約の部分は無効で、最低賃金と同じ定めをしたものとみなされる 最低賃金法4条
3 差別をしない(国籍など) 国籍・信条・社会的身分を理由に、労働条件で差別しない 労基法3条
3 差別をしない(賃金) 女性であることを理由に、賃金で差別しない 労基法4条
3 差別をしない(配置など) 性別を理由に、配置・昇進・降格などで差別しない 均等法6条
4 不合理な差をつけない 正社員とパート・有期の人の待遇に、待遇ごとに見て不合理な差を設けない。同じに扱うべき人への差別的取扱いも禁止 パート有期法8条・9条
5 説明する 雇う時に待遇の内容を説明し、求められたら、正社員との待遇の差の内容と理由を説明する パート有期法14条

最低賃金は、埼玉県で2026年10月1日から1,196円です(労務講座で扱った額)。実費の交通費は、最低賃金との比較に入れません。 育児休業などを取ったことを理由にした不利益な扱いも、育児・介護休業法などで禁止されています(厚生労働省の育児・介護休業の冊子)。

正社員とパート・有期の人の待遇の差は、線4のパート有期法で見ます。

② 線4(不合理な差)の考え方 さらっと

パート有期法8条は、基本給・賞与・手当などの待遇ごとに、次を考えて、不合理な差を設けてはいけないと定めています。

大事なのは、待遇ごとに考える点です。 「正社員だから高い」と一括りにせず、手当ごとに「なぜ差があるのか」を言えるようにしておきます。登録ヘルパーの時給と手当の考え方は、賃金講座のNo.11でも読みました。

賞与については、同一労働同一賃金のガイドラインが2026年10月1日から改正されて適用されています。 会社の業績への貢献に応じて払う賞与は、貢献が同じなら同じ額を払います。 差があれば、差に応じた額を払います。 正社員には全員に何らかの賞与を払うのに、パート・有期の人には払わない、という例が、問題になる例として示されています。

第3章 訪問介護でよくある場面の可否

① 場面ごとの可否 さらっと

次の表は、条文と厚生労働省の資料から読み取れる範囲で、場面ごとの可否を整理したものです。個別の事案は、実際の仕事の内容や働き方で変わります。

場面 可否 理由と条件
同じ登録ヘルパーでも、時給を人ごとに変える 可 規程の基準と最低賃金を下回らない。経験・資格・受け持つ利用者の難しさなど、理由を説明できること
ベテランだけに手当を出す 可(条件つき) 手当の目的に合う基準(勤続年数・資格など)を決めて、賃金規程に書く。好き嫌いや曖昧な「ベテラン」は避ける
正社員にだけ手当を出し、パート・有期には出さない 手当ごとに要確認 手当の目的と、職務・配置の違いで説明できるか。同じ資格で同じ仕事なら、理由を見つけにくい
週の所定時間を、人ごとに変える 可(合意と書面) 通知書に始業・終業の時刻と所定時間を書く。社会保険の加入基準に近づくので、時間数の確認も要る(正社員の4分の3以上働くと加入の対象になる。労務講座のNo.05)
会社の都合で、契約上の週の時間を一方的に減らす 原則不可 不利益な変更なので、本人の合意が要る。休業にする場合は休業手当(平均賃金の6割以上)の問題(労務講座のNo.09)
昇給を人ごとに変える 可 昇給の時期と基準は規則に書き、額は勤務成績などで各人ごとに決める(No.12)
賞与を正社員だけに払う 要注意 賞与の性質・目的に照らして説明できるか。ガイドライン改正で、貢献が同じなら同じ額という考え方
時給を、本人が納得したからと基準より低くする 不可 就業規則を下回る部分は無効(労契法12条)
女性であることを理由に、時給を低くする 不可 労基法4条(賃金の男女差別の禁止)
育児休業を取ったことを理由に、翌年の時給を下げる 不可 育児・介護休業法の不利益取扱いの禁止
正社員との待遇の差を聞かれた 説明が要る 差の内容と理由を説明する義務がある(パート有期法14条2項)

「要確認」「要注意」と書いた場面は、一度に結論を出さず、理由を書き出して、説明できるか確かめてから決めます。 迷う場合は、社労士に聞くことの欄に問いの形で書いておきます。

第4章 人ごとの契約の一覧を作る

① 一覧に書く項目 さらっと

人ごとに契約が違う会社では、違いを一覧にして、理由と一緒に書いておくと、説明が楽になります。 これは法律の義務ではなく、実務のすすめです。パート有期法14条2項の「求められたら説明する」に備える資料にもなります。

みどり訪問介護の一覧の例です(人は匿名にします)。

人 契約の種類 所定の時間 時給と手当 理由 規程を下回っていないか
Aさん 登録ヘルパー(有期) 週15時間 中級6号俸 1,700円・介護福祉士の資格手当(時間額60円) 介護福祉士の資格と勤続5年 基準と同じ
Bさん 登録ヘルパー(有期) 週10時間 初級1号俸 1,500円・資格手当なし 資格なし、勤続1年 基準と同じ
Cさん 正社員 週40時間 初級1号俸 月給170,000円・処遇改善手当50,000円 通常の勤務 基準と同じ

一覧を作ったら、次の3点を確認します。

  1. すべての行で、時給や手当が就業規則(賃金規程)の基準を下回っていないか
  2. 時給が最低賃金(埼玉県1,196円)以上か
  3. 差のある行に、理由が書けているか

理由が書けない行は、基準か運用のどちらかを見直す合図です。

○ よくある勘違い:本人が納得して署名した契約なら、規則より低くてもよい → 就業規則を下回る部分は無効(労契法12条)
○ よくある勘違い:パートだから、手当や賞与がなくて当然 → 待遇ごとに、理由を説明できる必要がある(パート有期法8条)
○ 関係する単元:No.03(契約社員3か月)/No.10〜12(賃金規程)/No.13(規則の変更)

人ごとに契約を変えるのは、合意で決める範囲なら問題ない。ただし、就業規則を下回らない・最低賃金・差別をしない・不合理な差をつけない・説明する、の5つの線は越えられない。人ごとの一覧を作り、各行に理由を書いておく。

自社の規則づくりシートに書くこと
○ ②の欄:人ごとの契約の一覧(契約の種類・所定の時間・時給と手当・理由・規程を下回っていないか)を、全員分書く
○ ⑤の欄:理由が書けない行、雇用形態による待遇差の説明、手当を人ごとに変える基準

確認問題

問1 賃金規程の別表で、登録ヘルパーのFさん(中級1号俸)の時給の基準は1,600円です。Fさんの契約書に1,500円と書かれ、本人も署名しています。この1,500円の部分の扱いはどれですか。

問2 登録ヘルパーのDさんから、「同じ仕事をしている正社員と、手当に差があるのはなぜですか」と聞かれました。会社の扱いとして正しいのはどれですか。

問3 みどり訪問介護が、賞与を正社員にだけ払い、パート・有期のヘルパーには払っていません。ガイドライン改正後の考え方として、正しいのはどれですか。

出典:労働契約法(https://laws.e-gov.go.jp/law/419AC0000000128)3条・4条・7条・8条・12条/労働基準法(https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049)3条・4条/男女雇用機会均等法(https://laws.e-gov.go.jp/law/347AC0000000113)6条/パートタイム・有期雇用労働法(https://laws.e-gov.go.jp/law/405AC0000000076)8条・9条・14条/最低賃金法(https://laws.e-gov.go.jp/law/334AC0000000137)4条/労働契約法のあらまし(https://www.mhlw.go.jp/content/001234797.pdf)/同一労働同一賃金ガイドライン(改正後の本文 https://www.mhlw.go.jp/content/11909000/001696696.pdf、ページ https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000190591.html)/訪問介護員のための魅力ある就労環境づくり(2014年 https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/kaigo/dl/roumu_manual_07.pdf)/「訪問介護労働者の法定労働条件の確保について」平成16年8月27日基発第0827001号(https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb5448&dataType=1&pageNo=1)/埼玉県の最低賃金は厚生労働省の全国一覧による。確認日 2026-11-04。労基法は2026年7月17日施行の版、労契法は2020年4月1日施行の版、パート有期法・均等法は2026年10月1日施行の版、最低賃金法は2025年6月1日施行の版で確認。