就業規則と賃金規程の作り方講座(書く・直す・届け出る・周知する)

区分3 条文を書く★★★

No.05 総則・採用・試用期間・異動の条文

規則の前半にあたる、総則・採用・試用期間・労働条件の明示・異動・休職の条文を、モデル就業規則の1〜9条を土台に自社の言葉へ書き換える単元です。区分3の最初なので、モデルの条文を自社用に直す手順そのものも、ここで身につけます。
目次
  1. 第0章 前提知識
  2. 第1章 総則と適用範囲(1〜3条)
  3. 第2章 採用・提出書類・試用期間・労働条件の明示(4〜7条)
  4. 第3章 異動と休職(8・9条)
  5. 確認問題

第0章 前提知識

① 条文を書き換める3手 :モデルを読む→実態を並べる→直して確かめる

厚生労働省のモデル就業規則(令和7年12月版。以下「モデル」)は、会社名や日数などの空欄を埋めて使う型です。 ただし、そのまま埋めるだけでは自社の働き方と合いません。次の3手で直します。

  1. モデルの条文と、その解説を読む
  2. 自社の実態(人数・契約の種類・働き方)を並べる
  3. 実態に合わせて直し、法律の基準を下回っていないかを確かめる

この講座では、自社用の例を、架空の会社「みどり訪問介護株式会社」で書きます。正社員と登録ヘルパーあわせて12人ほどの、訪問介護の会社です。 使用者とは、労働者を使う側のことで、みどり訪問介護でいえば会社と経営者です。

規程とは、就業規則の一部になる別の決まり(賃金規程・育児介護休業規程など)のことです。くわしくはNo.01で扱いました。

② 似た言葉との違い

この単元で混ざりやすい3つを分けます。

言葉 何のことか
試用期間 採用した人の適性を見る期間。期間の途中や満了時に本採用をしないと決めることもある
有期契約(契約社員) 契約に終わりの日がある雇い方
休職 労働者の身分を残したまま、働く義務を一定期間なくす扱い

「最初の3か月は契約社員、その後に正社員」という雇い方は、試用期間と有期契約が重なります。この重なりの判断はNo.03で扱います。この単元では、条文をどう書くかを見ます。

第1章 総則と適用範囲(1〜3条)

① 目的と遵守(1・3条) さらっと

モデル1条は、この規則が労基法89条に基づく決まりであり、書いていない事項は労基法その他の法令による、という内容です。 3条は、会社と労働者の両方が規則を守る、という内容です。

ここは空欄の会社名を埋めれば足ります。

第1条 この規則は、労働基準法第89条に基づき、みどり訪問介護株式会社(以下「会社」という。)の労働者の就業に関する事項を定めるものである。

② 適用範囲(2条) 必ず覚える

2条は、この規則を誰に適用するかを決める条です。 モデルの解説は、就業規則はすべての労働者について作る必要があるが、全員が同じ内容でなくてよいとしています。

パートなどに本体の一部または全部を適用しないなら、本体の適用範囲に、その旨をはっきり書き、その人たちに適用する別の規則を作る必要があります。 書かないまま登録ヘルパー用の規則だけがあると、本体との関係があいまいになります。

みどり訪問介護の例です。

第2条 この規則は、正社員及び契約社員に適用する。

2 登録ヘルパー(雇用契約を結び、会社が示す勤務表により訪問介護に従事する短時間の労働者)の就業に関する事項は、「登録ヘルパー就業規則」で定める。

3 前項の規則に定めのない事項は、この規則を適用する。

別の規則の1条には、「みどり訪問介護株式会社就業規則第2条第2項に基づき」と、本体からの委任を書きます(パートタイム・有期雇用労働者用の厚労省規定例の型です)。 別の規則も就業規則の一部なので、作る時と変える時は、No.14の意見聴取、No.15の届出、No.16の周知が必要です。

ここからは法律の決まりではなく、実務のすすめです。 契約社員にも本体を適用する形にしておくと、3か月後に正社員になっても、適用される規則が切り替わりません。

正社員とパートの待遇に差がある時は、パートや有期の人から求められたら、差の内容と理由を説明する義務があります。 これはパート有期法(パートタイム・有期雇用労働法)14条2項の決まりです。差を付ける理由はNo.04で扱います。

第2章 採用・提出書類・試用期間・労働条件の明示(4〜7条)

① 採用手続と提出書類(4・5条) さらっと

採用で男女に均等な機会を与えることは、法律の義務です(均等法=男女雇用機会均等法5条)。 モデル5条の解説は、年齢や住所の確認に戸籍謄本や住民票の写しを出させるのは適切でなく、住民票記載事項証明書が適切だとしています。 出させる書類は、目的を本人に説明するよう求めています。

第5条 労働者として採用された者は、採用された日から2週間以内に、次の書類を提出しなければならない。

① 住民票記載事項証明書 ② 資格証明書の写し ③ その他会社が指定するもの

2 提出書類の目的は、会社が採用の際に説明する。

② 試用期間(6条) 必ず覚える

試用期間の長さに、労基法上の決まりはありません。モデルの解説は、長すぎる試用期間は労働者の地位を不安定にするので好ましくない、としています。 裁判では、合理的な期間を超える長い試用期間を無効とした例があります。 公序良俗(社会の常識)に反するという理由です(ブラザー工業事件 名古屋地裁昭和59年3月23日。厚労省「確かめよう労働条件」に載っています)。

条文には、次の3つを書きます。

第6条 新たに採用した者については、採用した日から3か月間を試用期間とする。

2 会社が特に認めたときは、試用期間を短縮することがある。

3 試用期間中又は満了時に、労働者として不適格と認めた者は、本採用をしないことがある。ただし、採用から14日を経過した者については、第○条(解雇)に定める手続による。

4 試用期間は、勤続年数に通算する。

本採用をしないことは、法律上は解雇にあたります。 最高裁(神戸弘陵学園事件 平成2年6月5日)は、本採用の拒否について、次のように判断しました。 本採用の拒否は、試用のために取っておいた解約権(辞めてもらう権利)の行使です。客観的に合理的な理由があって、社会通念上相当と認められる場合にだけ許されます。 通常の解雇より広く認められるとされますが、理由は要ります。

解雇の予告も関係します。 試用期間中でも、14日を超えて使えば、30日前の予告か予告手当が要ります(労基法20条・21条)。 予告手当は、30日分以上の平均賃金(直近3か月に払った賃金の、1日あたりの平均額)です。3項の「14日」は、この区切りです。

みどり訪問介護は、今は最初の3か月を契約社員(有期)で雇っています。 試用のための有期契約は、期間満了で終わるという明確な合意がなければ、試用期間と扱われます(同じ判決)。この判断は、No.03で詳しく見ます。

安全な扱いは、次のとおりです。

求人と労働条件通知書には、「試用期間あり(3か月)」と明示します(職安則4条の2。2018年1月から)。 健康保険・厚生年金は、試用期間中でも報酬が払われるなら、使用関係があるとして加入の対象です(日本年金機構)。

③ 労働条件の明示(7条) さらっと

採用する時は、労働条件通知書と、この規則を渡して明示します。 パート・有期の人には、昇給・退職手当・賞与の有無と、相談窓口も、文書などで明示します(パート有期法6条1項)。

2024年4月から、全員に「就業場所と業務の変更の範囲」を、有期契約には「更新上限の有無と内容」などを明示します。 通知書の書き方は、労務講座のNo.04で扱いました。7条の条文は、モデルの形のままで足ります。

第3章 異動と休職(8・9条)

① 人事異動(8条) さらっと

業務上の理由で、就業場所や業務を変えることは、変えない旨の特別な合意がなければ可能です。 ただし、揉めやすいので、モデルは規則に書いておくのが望ましいとしています。

みどり訪問介護の例では、「変更の範囲」を通知書に示す形にすると、規則と通知書がずれません。

第8条 会社は、業務上必要がある場合に、労働者に対して就業する場所及び従事する業務の変更を命ずることがある。

2 前項の変更の範囲は、労働条件通知書に示す。

3 労働者は、正当な理由なくこれを拒むことができない。

就業場所を変える時は、育児や介護の状況に配慮します(育介法=育児・介護休業法26条)。

② 休職(9条) 深追いしない

休職の定義や期間の制限、復職の扱いは、労基法に決まりがありません(モデル9条の解説)。 つまり、入れるかどうかも内容も、会社が決めます。

ここからは法律の決まりではなく、実務のすすめです。 入れるなら、休職の事由・期間・復職の扱い・期間が満了した時の扱い・休職中の賃金(無給か有給か)を書きます。満了時の扱いを書いておくと、「休職期間の満了をもって退職とする」の根拠になります(モデル9条3項)。 試用期間中の人や登録ヘルパーに休職を適用するかも、あわせて決めます。

○ よくある勘違い:「最初の3か月は契約社員だから、期間が終われば自由に終わらせられる」→ 試用のための有期契約は、明確な合意がなければ試用期間と扱われる(第2章②、くわしくはNo.03)
○ 関係する単元:No.01(規程と就業規則)/No.03(試用期間と契約社員)/No.04(通知書と人ごとの契約)/No.16(別の規則の周知)

2条で、本体を誰に適用し、誰に別の規則を作るかを書く。6条は、試用期間の長さ・本採用をしない場合の扱い・勤続の通算を書く。本採用をしないことは解雇にあたり、理由が要る。

自社の規則づくりシートに書くこと
・欄①(直す条文と新旧対照):2条・6条・8条を、今の条文と並べて新旧対照の1行にする
・欄②(試用期間と人ごとの契約の一覧):「今の契約社員3か月」を、6条の試用期間に合わせて書く案と、理由をメモする
・欄⑤(社労士に聞くこと):契約社員3か月から試用期間に切り替える時の、今いる人の扱い

確認問題

問1 みどり訪問介護が、採用から3か月後に、ある人の本採用を見送ろうとしています。6条の試用期間として書いてある場合、この見送りの扱いは?

問2 登録ヘルパーには本体の就業規則を適用せず、別の規則を作ることにしました。本体の条文の書き方として正しいのは?

問3 入社した人の年齢と住所を確認するために、会社が出させる書類として適切なのは?

出典:厚生労働省 モデル就業規則(令和7年12月版)1〜9条と解説(https://www.mhlw.go.jp/content/001620507.pdf)/労働基準法89条・20条・21条(https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049)/職業安定法施行規則4条の2/パートタイム・有期雇用労働法6条・14条(https://laws.e-gov.go.jp/law/405AC0000000076)/男女雇用機会均等法5条/育児・介護休業法26条/神戸弘陵学園事件 最高裁平成2年6月5日判決(https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-19118.pdf)/確かめよう労働条件「試用期間」(https://www.check-roudou.mhlw.go.jp/hanrei/shogu/shiyou.html)/日本年金機構「適用事業所と被保険者」(https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/tekiyo/jigyosho/20150518.html)。確認日 2026-11-04。モデル就業規則は令和7年12月版、労基法は2026年7月17日施行の版で確認。みどり訪問介護株式会社は架空の会社で、条文は例です。