就業規則と賃金規程の作り方講座(書く・直す・届け出る・周知する)
区分3 条文を書く★★★服務規律とは、労働者が働く時に守る行動のルールのことです。 遵守事項(守るべき事項)や、遅刻・欠勤の連絡の決まりなどが入ります。
ハラスメントとは、嫌がらせのことです。法律で会社が対策を求められるものを、次の4つに分けて考えます。
| 種類 | 何のことか | 誰が行うか |
|---|---|---|
| パワハラ | 職場の優越的な関係を背景にした、業務上必要かつ相当な範囲を超える言動で、就業環境を害するもの | 同じ会社の労働者 |
| セクハラ | 性的な言動で、不利益や不快感を与えたり、就業環境を害したりするもの | 同じ会社の労働者 |
| 妊娠・出産・育児・介護に関するハラスメント | 妊娠・出産等や、育児・介護の制度の利用に関する言動で、就業環境を害するもの | 同じ会社の労働者 |
| カスハラ | 顧客・利用者などの言動で、業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許される範囲を超え、就業環境を害するもの | 会社の外の人(利用者・家族など) |
措置義務とは、会社が、ハラスメントを防ぐために、相談体制の整備などの対策を講じなければならない、という法律上の義務のことです。 使用者とは、労働者を使う側(会社・経営者)のことです。
最初の3つは、労働者が他の労働者に対してしてはならないこととして、労働者の守るルールに書きます(モデル就業規則の12〜15条。以下モデル)。 カスハラは、行うのが会社の外の人です。労働者に禁止することではなく、会社が労働者を守る方法を書く条文になります。
服務(10条)と遵守事項(11条)は、就業規則に必ず書く事項ではありません。 ただし、モデルの解説は、職場の秩序を守る大きな役割があるので、会社が守らせたい事項を定めるよう勧めています。
訪問介護では、モデルの項目に加えて、利用者に関わる事項を入れておくと、のちの懲戒の根拠になります(懲戒はNo.09)。 ここからは法律の決まりではなく、実務のすすめです。
第11条 労働者は、次の事項を守らなければならない。
① 利用者又はその家族から、金品や飲食物を受け取らないこと。
② 業務上知り得た利用者の情報を、在職中及び退職後も漏らさないこと。
③ 会社の許可なく、サービスの内容や時間を変更しないこと。
④ 利用者の人格を尊重すること。
⑤ 記録は事実のとおり書くこと。
個人情報の扱い(16条)は、個人情報保護法で、会社に適正な管理の対策が義務付けられています(モデルの解説)。 モデルの16条は、情報の管理に注意し、業務に関係のない情報を不当に取得せず、異動や退職の時に返す、という内容です。
モデル17条は、始業と終業の時にタイムカードを自分で打刻する、という形です。 訪問介護のヘルパーは、利用者宅へ直行直帰するので、事務所のタイムカードは使えません。実際には、本人が申告する形になります。
厚労省のガイドライン(平成29年1月20日策定)は、自己申告にする時に、会社が次のことをするよう求めています。
訪問介護の通達(厚生労働省が労基署などに出す、法律の解釈や運用を示した文書。平成16年8月27日 基発第0827001号)も、同じ趣旨です。 業務報告書で労働時間を把握している場合は、正しく記録して報告することを、ヘルパーに十分説明するよう求めています。
第17条 労働者は、始業及び終業の時刻(訪問の開始・終了の時刻と、移動・待機の時刻を含む。)を、会社の定める方法により、事実のとおり記録し、申告しなければならない。
2 会社は、申告された時間が実際の様子と合っているかを確認し、合わない場合は実態を調べて補正する。
3 会社は、申告できる時間数に上限を設けない。
移動・待機が労働時間になる範囲は、No.06で書きました。
モデル18条は、遅刻・早退・欠勤や、勤務中の私用外出の時に、事前に申し出て承認を受ける、という内容です。 手続はどのように書いてもよいのですが、明確に定めることが、秩序を守るうえで重要だとされています。
訪問介護では、1人の欠勤が、利用者の予定にすぐ響きます。連絡先と連絡の期限を、具体的に書きます。
第18条 労働者は、遅刻、早退又は欠勤をする時は、訪問開始の2時間前までに、管理者に連絡し、承認を受けなければならない。ただし、やむを得ない理由で事前に連絡できない時は、事後に速やかに連絡する。
2 欠勤等の不就労分の賃金は、賃金規程に定めるところにより控除する。
「2時間前」は、みどり訪問介護が決めた例です。 賃金を引く扱いは、賃金規程に書きます(No.10)。
モデルの12〜15条は、4つのハラスメントを、労働者の守るルールとして禁止する型です。 4つは、パワハラ・セクハラ・妊娠出産育児介護に関するハラスメント・「その他あらゆるハラスメント」(性的指向・性自認に関する言動など)です。 みどり訪問介護でも、この型を土台にします。
第12条 職務上の地位や人間関係などの職場内の優越的な関係を背景として、業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により、他の労働者の就業環境を害してはならない。
13条(セクハラ)〜15条(その他のハラスメント)も、モデルの文のとおりで足ります。
ここで、条番号に注意が必要です。 パワハラ防止の措置義務は、労働施策総合推進法にあります。2026年10月1日の改正で、旧30条の2が31条に変わりました。 モデルの12条の解説は、令和7年12月版のため、改正前の「30条の2」のままです。
そこで、実務のすすめとして、規則の本文には、法律の条番号を書かないことにします。改正のたびに、規則の直しが要らなくなります。
12〜15条に違反した場合は、懲戒の対象にします(モデルは、懲戒の事由に入れています)。これはNo.09で扱います。
労働施策総合推進法33条は、2026年10月1日に施行されました(令和7年法律第63号)。 事業主は、顧客・取引の相手方・施設の利用者その他の事業に関係する人の言動から、労働者の就業環境を守らなければなりません。 対象は、業務の性質その他の事情に照らして、社会通念上許される範囲を超えた言動です。 具体的には、次の3つの措置を講じます。
労働者が相談したことなどを理由に、解雇その他の不利益な取扱いをすることは禁止されています(同条2項)。 他の事業主から、この措置への協力を求められた時は、応じるよう努めます(同条3項。努力義務です。守れるよう努めることが求められますが、守らなくても罰則にはなりません)。
全ての事業主が対象です(労働局の案内)。 モデルには、カスハラの規程例が入っていません。モデルの本文を「カスタマー」「顧客」で探しても該当はありません。自社で条文を考える必要があります。
措置の具体的な内容は、指針(令和8年厚生労働省告示第51号)に書かれています。厚労省のページで、次のように整理されています。
| 措置 | 内容 |
|---|---|
| ① 方針の明確化と周知 | 毅然と対応して労働者を保護する方針を決め、カスハラの内容と、あらかじめ定めた対処を、管理監督者(労働時間などの規制が外れる、経営と一体の立場の人)を含む労働者に周知する |
| ② 相談体制の整備 | 相談窓口をあらかじめ定めて周知する。発生のおそれや、該当するか微妙な場合も、広く相談に応じる |
| ③ 事後の対応 | 事実関係を迅速かつ正確に確認し、被害を受けた人への配慮と再発防止を行う |
| ④ 抑止のための措置 | 特に悪質なものへの対処の方針を決めて周知し、実際に対処できる体制を整える |
| ⑤ 併せて講ずる措置 | 相談者のプライバシーを守る。相談等を理由とする不利益取扱いを禁じる旨を決めて周知する |
指針は、不利益取扱いの禁止を、就業規則その他の服務規律を定めた文書に書いて周知する例を挙げています。 つまり、①〜⑤のうち、規則に書くのが適した部分と、規則の外で整える部分(窓口・対応の手順・利用者へのお知らせ)に分かれます。
そこで、次の5点を文書にして、全員に配ります。 指針の本文(告示第51号)との照らし合わせは、仕上げに社労士に頼みます。
みどり訪問介護(架空の会社)の条文例です。
第○条(利用者等からのハラスメントへの対応)
1 この条で「利用者等からのハラスメント」とは、次の全てに当たるものをいう。
(1) 利用者、その家族その他会社の事業に関係を有する者の言動であること。
(2) 業務の性質その他の事情に照らして、社会通念上許容される範囲を超えていること。
(3) 労働者の就業環境を害するものであること。2 会社は、利用者等からのハラスメントに対して、毅然とした態度で対応し、労働者を保護する。
3 労働者は、利用者等からのハラスメントを受け、又は受けるおそれがある時は、一人で抱え込まず、速やかに相談窓口(管理者)に報告する。身の危険を感じる時は、訪問を中断して退避することができる。
4 会社は相談窓口を設け、利用者等からのハラスメントに関する相談に応じる。発生のおそれがある場合や、該当するか微妙な場合も、相談することができる。
5 会社は、相談を受けた時は、事実関係を迅速かつ正確に確認し、事実が確認できた場合は、担当者の変更、複数人での訪問その他の必要な配慮と、再発防止の措置を講ずる。
6 会社は、特に悪質な言動への対処の方針を別に定め、労働者に周知する。
7 会社は、労働者が相談したこと、又は事実確認に協力したことを理由として、解雇その他の不利益な取扱いをしない。相談者のプライバシーは保護する。
8 利用者等のサービスに対する正当な苦情や要望は、利用者等からのハラスメントにあたらない。
3項の「退避することができる」は、指針の例そのものではなく、会社が決める事柄です。決めずに空欄のままにしないでください。 8項は、指針が、サービス上の問題が背景にあり得る点に触れていることを踏まえた、実務のすすめです。
警告文の発出やサービス提供の見直しなど、利用者本人への対応は、利用者との契約書類の側の整備が関わります。ここは労務の規則の範囲を超えます。利用者との契約書類を整える時に、社労士に聞くことに入れます。
相談窓口は、管理者でも外部でも構いません。他のハラスメントの窓口と1つにまとめてもかまいません(指針)。
ここで大事なのは、登録ヘルパーにも、同じ条文を渡すことです。 利用者宅へ1人で行く登録ヘルパーは、カスハラの被害を受けやすい立場にあります。本体の規則だけに書くと、登録ヘルパー用の別の規則には入りません。同じ条を、別の規則にも入れます。
周知の方法は、No.16で扱います。
○ よくある勘違い①:規則の本文に、法律の条番号を書いておくと安心 → 条番号は改正で変わる(パワハラは30条の2から31条へ)。本文には書かない(第2章①)
○ よくある勘違い②:カスハラは利用者の問題なので、会社に義務はない → 会社に、相談体制の整備などの措置義務がある(労働施策総合推進法33条。第3章①)
○ 関係する単元:No.09(ハラスメントの違反を懲戒の事由にする)/No.16(登録ヘルパーへの渡し方)/労務講座 No.11(ハラスメント防止の全体像)
17条は、直行直帰に合わせて、自己申告の記録に書き換える(上限を設けない)。パワハラ等はモデルの12〜15条の型で書き、条番号は本文に書かない。カスハラはモデルに例が無いので、方針・相談窓口・対応の手順・不利益取扱いの禁止・プライバシーを、自社で条文にする。
自社の規則づくりシートに書くこと
・欄①(直す条文と新旧対照):11条(利用者に関する遵守事項)・17条・18条・カスハラの新設条を、新旧対照の行にする(新設は「旧:なし」)
・欄④(意見書・届出・周知の段取り):カスハラの条を、本体と登録ヘルパー用の規則の両方に入れる段取りを書く
・欄⑤(社労士に聞くこと):カスハラ指針(告示第51号)の原文に照らした条文の確認、利用者との契約書類の整備
問1 モデル就業規則(令和7年12月版)とカスハラの関係について、正しい説明は?
問2 直行直帰のヘルパーの労働時間を、自己申告で把握します。会社が正しい対応として定めるのは?
問3 2026年10月1日の改正後、パワハラ防止の措置義務を定めている労働施策総合推進法の条は?
出典:労働施策総合推進法31条・33条・34条(https://laws.e-gov.go.jp/law/341AC0000000132。2026年10月1日施行の版)/「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」令和8年2月26日厚生労働省告示第51号(https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=75ac0814&dataType=0&pageNo=1)/厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/seisaku06/index.html)/モデル就業規則(令和7年12月版)10〜18条・66〜68条(https://www.mhlw.go.jp/content/001620507.pdf)/労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン(平成29年1月20日策定。モデル就業規則17条の解説に抜粋)/「訪問介護労働者の法定労働条件の確保について」平成16年8月27日基発第0827001号(https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb5448&dataType=1&pageNo=1)。確認日 2026-11-04。みどり訪問介護株式会社は架空の会社で、条文は例です。