就業規則と賃金規程の作り方講座(書く・直す・届け出る・周知する)

区分3 条文を書く★★★

No.09 退職・解雇・表彰と制裁の条文

辞める時・辞めさせる時・規律違反に対応する時の条文を書く単元です。退職の事由と解雇の事由は就業規則に必ず書く事項で、懲戒は規則に書いていない理由では使えません。揉めた時に会社が頼る根拠になる条文なので、しっかり読む回です。
目次
  1. 第0章 前提知識
  2. 第1章 定年と退職(51・52条)
  3. 第2章 解雇(53条)
  4. 第3章 表彰と懲戒(66〜68条)
  5. 確認問題

第0章 前提知識

① 退職・解雇・懲戒 :労働者が会社を離れる場合と、規律違反への対応

この単元で使う4つの言葉を、先に分けておきます。

言葉 何のことか
退職 労働者が身分を失う場合の全部(自分から辞める、期間が満了する、解雇される、など)
解雇 会社が一方的に労働契約を終わらせること
懲戒処分 規律に違反した労働者への制裁(けん責・減給・出勤停止・懲戒解雇)
懲戒解雇 懲戒処分としての解雇

使用者とは、労働者を使う側(会社・経営者)のことです。

② 必ず書く事項と、定めるなら書く事項

モデル就業規則(令和7年12月版。以下「モデル」)は、退職に関する事項を、就業規則に必ず書く事項としています。 労基法89条の「退職」には、辞める場合・解雇・契約期間の満了など、労働者が身分を失うすべての場合が入ります。解雇の事由も、必ず書きます。

表彰と制裁(懲戒)は、定めをするなら、種類と程度を必ず書く事項です(労基法89条)。 つまり、懲戒の制度を持つなら、規則に書かなければなりません。

第1章 定年と退職(51・52条)

① 定年 さらっと

定年とは、一定の年齢に達したことを退職の理由とする制度です。 定める場合は、次の決まりがあります。

モデル51条は、例1(定年を満70歳)から例4まで、複数の型を載せています。 みどり訪問介護の例は、65歳定年にして、希望者を70歳まで継続して雇う型です(モデルの例2に沿っています)。

第51条 労働者の定年は、満65歳とし、定年に達した日の属する月の末日をもって退職とする。

2 前項の規定にかかわらず、定年後も引き続き雇用されることを希望し、解雇事由又は退職事由に該当しない労働者については、満70歳までこれを継続雇用する。

定年について、性別を理由に差を付けることはできません。男女雇用機会均等法(以下「均等法」)6条の決まりです。 登録ヘルパーにも定年を設けるかは、登録ヘルパー用の別の規則で決めます。

② 退職の事由と、辞める時の予告 必ず覚える

モデル52条は、退職になる場合として、次の4つを挙げています。

事由 内容
本人の申出 退職を願い出て会社が承認した時、または退職願を出して○日を経過した時
期間の満了 期間を定めて雇われている場合に、その期間が満了した時
休職の満了 休職期間が満了しても、休職の事由が消えない時
死亡 死亡した時

期間の定めのない雇用の労働者は、いつでも退職を申し出られます。会社の承認がなくても、申し出た日から原則14日を過ぎれば、退職になります(民法627条1項。モデル52条の解説)。

期間を定めた契約(契約社員など)が満了した時は、更新しないこともできます。 ただし、次の場合は、雇止め(更新しないこと)に、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が要ります(労契法19条)。 何度も更新されて、期間の定めのない契約と変わらない場合と、更新を期待することに合理的な理由がある場合です。期間の途中でやめさせるには、やむを得ない事由が要ります(労契法17条)。

第52条 労働者が次のいずれかに該当するときは、退職とする。

① 退職を願い出て会社が承認したとき、又は退職願を提出して14日を経過したとき

② 期間を定めて雇用されている場合、その期間を満了したとき

③ 休職期間が満了し、なお休職事由が消滅しないとき

④ 死亡したとき

2 退職を希望する時は、引継ぎのため、できるだけ30日前までに申し出るよう努める。

3 労働者が退職し、又は解雇された場合、請求に基づき、使用期間、業務の種類、地位、賃金又は退職の事由を記載した証明書を、遅滞なく交付する。

3項は、労基法22条の定めです。本人が請求していない事項は書けません。 「30日前」は、みどり訪問介護が決めた例です。

③ 14日より長い予告を書く時 さらっと

規則に「退職の○日前までに申し出る」と、14日より長く書いた場合の効力は、法律や国の資料に決まりが無いので、次の扱いにします。 14日を超える日数は、第52条2項のように、「できるだけ○日前までに申し出るよう努める」という努力の形で書きます。この形でよいかは、社労士に確かめてください。

第2章 解雇(53条)

① 解雇の2つの関門 必ず覚える

解雇には、次の2つの関門があります。

予告が要らない人もいます(労基法21条)。

No.05の6条の3項にある「14日」は、この最後の区切りです。

解雇が禁じられる場面もあります。主なものは、次のとおりです(労基法19条)。

モデル53条の解説には、国籍・信条・社会的身分や性別を理由とする解雇など、このほかにも禁止される場面が一覧で載っています。事由を書く時は、それらに当たらないようにします。

② 事由の書き方 さらっと

モデル53条は、解雇の事由を8つ挙げ、最後に「前各号に準ずるやむを得ない事由」を置く型です。 みどり訪問介護では、自社の実態に合わせて、一部を絞ります。

第53条 労働者が次のいずれかに該当するときは、解雇することがある。

① 勤務状況が著しく不良で、改善の見込みがなく、労働者としての職責を果たし得ないとき。

② 精神又は身体の障害により、業務に耐えられないとき。

③ 試用期間における作業能率又は勤務態度が著しく不良で、労働者として不適格であると認められたとき。

④ 第68条第2項に定める懲戒解雇事由に該当する事実が認められたとき。

⑤ 事業の運営上やむを得ない事由により、事業の縮小等を行う必要が生じ、かつ他の職務への転換が困難なとき。

⑥ その他前各号に準ずるやむを得ない事由があったとき。

2 前項により解雇する場合は、少なくとも30日前に予告する。予告しないときは、平均賃金の30日分以上の手当を支払う。ただし、予告の日数は、解雇予告手当を支払った日数だけ短縮できる。

3 解雇の理由を記載した証明書の交付を請求された場合は、交付する。

モデルの8つの事由のうち、残りを入れるかは、新旧対照表の作業(シートの欄①)で決めます。 ここからは法律の決まりではなく、実務のすすめです。解雇をする時は、理由と、それまでの注意や指導の経緯を、書面に残します。

第3章 表彰と懲戒(66〜68条)

① 懲戒の根拠と種類 必ず覚える

懲戒は、規則に定めのない事由では行えません。 懲戒は、規則の定めるところにより行うものだからです。モデルの解説は、最高裁の国鉄札幌運転区事件(昭和54年10月30日)の判決を挙げて、同じ説明をしています。

懲戒には、ほかにも次の制限があります(モデル68条の解説)。

懲戒の種類は、モデル67条で次の4つです。

種類 内容
けん責 始末書を出させて、将来を戒める
減給 始末書を出させて、賃金を減らす
出勤停止 始末書を出させ、○日を限度に出勤を止める。その間の賃金は出さない
懲戒解雇 予告なしに即時に解雇する。労基署長の認定を受ければ、予告手当を払わなくてよい

減給には、上限があります(労基法91条)。 1回の額は、平均賃金の1日分の半額まで、総額は、1回の賃金支払期の賃金総額の10分の1までです。

たとえば、平均賃金の1日分が1万円の人なら、1回の違反に対する減給は5,000円までです。賃金支払期(月)の賃金総額が25万円なら、その月の減給の総額は2万5,000円までです(金額は計算の例です)。

遅刻や早退の時間分の賃金を引くのは、労働していない分なので制裁ではありません。ただし、その時間の賃金額を超えて引くと、制裁にあたり、91条の上限が及びます。

② 懲戒の事由の書き方 さらっと

モデル68条は、事由を2つに分けています。 1項が、けん責・減給・出勤停止にする場合、2項が、懲戒解雇にする場合です。

訪問介護では、モデルの事由に、利用者に関わる行為を加えます。 No.08で書いた遵守事項(11条)やハラスメントの禁止(12〜15条)への違反を、懲戒の事由に入れます。事由は、具体的に書くほど、後で判断がぶれません。

第68条 労働者が次のいずれかに該当するときは、情状に応じ、けん責、減給又は出勤停止とする。

① 正当な理由なく訪問を行わず、又は無断で訪問の内容や時間を変更したとき。

② 第11条、第12条、第13条、第14条又は第15条に違反したとき。

③ 記録を、事実と異なる内容で作成したとき。

④ その他この規則に違反し、又は前各号に準ずる不都合な行為があったとき。

2 労働者が次のいずれかに該当するときは、懲戒解雇とする。ただし、情状により、普通解雇、減給又は出勤停止とすることがある。

① 重要な経歴を詐称して雇用されたとき。

② 第12条から第15条までに違反し、その情状が悪質と認められるとき。

③ 故意又は重大な過失により、利用者又は会社に重大な損害を与えたとき。

④ 数回にわたり懲戒を受けたにもかかわらず、なお改善の見込みがないとき。

カスハラは、行うのが利用者や家族なので、この懲戒の対象ではありません(No.08)。

登録ヘルパーの出勤停止は、勤務表に入れない期間として扱うことになります。 その間の賃金の扱いは、法律や国の資料に決まりが無いので、次の扱いにします。登録ヘルパーに出勤停止を使う前に、社労士に聞きます。

③ 表彰(66条) 深追いしない

表彰は、労働者の士気を高めるための制度で、定めるなら規則に書きます(モデル66条の解説)。 みどり訪問介護では、置かなくても構いません。賞金を出すなら、金額と条件を、賃金規程の側で決めて合わせます(No.10)。

○ よくある勘違い①:規則に書いていなくても、悪いことをした人は懲戒できる → 規則に定めのない事由では、懲戒処分はできない(第3章①)
○ よくある勘違い②:退職は1か月前に申し出ると規則に書けば、必ずそれを守らせられる → 14日を超える日数は、効くとは限らない。努力の形で書く(第1章③)
○ 関係する単元:No.03・No.05(試用期間と本採用の見送り)/No.08(11〜15条の遵守事項)/No.16(周知)

退職の事由と解雇の事由は必ず書く。解雇には、理由と予告の2つの関門がある。懲戒は、規則に書いた事由でしかできず、減給は1回が平均賃金1日分の半額、総額が賃金総額の10分の1まで。

自社の規則づくりシートに書くこと
・欄①(直す条文と新旧対照):51〜53条と、68条の懲戒事由(訪問介護の事由を足した行)を、新旧対照にする
・欄②(試用期間と人ごとの契約の一覧):契約社員の期間満了(52条2号)と、試用期間中の解雇(53条1項3号)の扱いを書く
・欄⑤(社労士に聞くこと):退職の予告期間の書き方(第52条2項の努力の形でよいか)、登録ヘルパーの出勤停止、懲戒解雇の予告除外の認定を受ける手順

確認問題

問1 みどり訪問介護の規則に「退職は会社の承認を得て行う」と書いてあります。期間の定めのない雇用の正社員が退職を申し出ました。会社が承認しない場合の扱いは?

問2 みどり訪問介護の規則には、「利用者宅で金品を受け取った場合は懲戒する」という定めがありません。ある労働者が金品を受け取ったので、会社は懲戒処分をしようとしています。扱いとして正しいのは?

問3 平均賃金の1日分が1万円の労働者に、減給の懲戒をします。1回の違反に対する減給の上限は?

出典:労働基準法12条・19条・20条・21条・22条・89条・91条(https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049)/労働契約法15条・16条・17条・19条(https://laws.e-gov.go.jp/law/419AC0000000128)/厚生労働省 モデル就業規則(令和7年12月版)51〜53条・66〜68条と解説(https://www.mhlw.go.jp/content/001620507.pdf。国鉄札幌運転区事件、民法627条1項、高年齢者雇用安定法8条・9条・10条の2は同解説の記載)/男女雇用機会均等法6条。確認日 2026-11-04。労基法は2026年7月17日施行の版、労契法は2020年4月1日施行の版で確認。みどり訪問介護は架空の会社で、条文と金額は例です。