就業規則と賃金規程の作り方講座(書く・直す・届け出る・周知する)

区分4 賃金規程を書く★★★

No.10 賃金規程の骨組み(必ず書く事と構成)

賃金規程の条文を1本も書かないうちに、「何を書けば足りるのか」と「どの順に並べるのか」を決める単元です。区分4の最初の回で、ここで決めた章立てが、No.11とNo.12の条文を入れる器になります。出番は規程を作る時と直す時で、この回はしっかり読みます。
目次
  1. 第0章 前提知識
  2. 第1章 賃金規程に必ず書く事
  3. 第2章 定めるなら書く事
  4. 第3章 みどり訪問介護の賃金規程の章立て
  5. 確認問題

第0章 前提知識

① 賃金規程 :就業規則の一部になる、賃金だけの規程

就業規則は、会社が決める職場のルールを書いた書類です。 そのうち賃金の決まりだけを取り出して、別の書類にしたものが賃金規程です。規程とは、就業規則の一部になる別の決まりのことで、就業規則と規程の関係はNo.01で扱いました。

厚生労働省のモデル就業規則は、第6章(賃金)の冒頭で、賃金を本体とは別に定めてよいと書いています。 ただし、別に定めた賃金規程も就業規則の一部です。就業規則の一部なので、所轄の労働基準監督署長への届出が要ります。労働基準監督署は労基署、労働基準法は労基法と略します。 労基法89条は、常時10人以上の労働者を使う会社に、就業規則を作った時も、変えた時も、届け出るよう求めています。 事業場(場所ごとの職場を1つと数える、労基法の単位)ごとに数えます。

賃金とは、労基法11条で、給料・手当・賞与など名前を問わず、労働の対償として使用者が労働者に払うすべてのものです。 使用者は会社の側(経営者など)、労働者は雇われて働く人のことです。

② 必要記載事項 :就業規則に書かなければならない事柄

労基法89条は、就業規則に書く事柄を2つに分けています。

賃金に関わる所を拾うと、次の表のとおりです(89条)。

種類 賃金に関わる事柄 号
絶対的 賃金(臨時の賃金等を除く)の決定・計算・支払の方法、賃金の締切りと支払の時期、昇給 2号
相対的 退職手当(定めるなら) 3号の2
相対的 臨時の賃金等(退職手当を除く)と最低賃金額(定めるなら) 4号
相対的 食費・作業用品などを労働者に負担させる定め(定めるなら) 5号

臨時の賃金等とは、臨時に払う賃金や賞与など、毎月払う原則から外れる賃金のことです(労基法24条2項ただし書)。

③ 似た書類との違い

賃金に関わる書類は、役目が違います。

書類 役目
賃金規程 賃金の決まりを書く。会社のルール(就業規則の一部)
労働条件通知書 採用の時に本人へ渡す。本人の賃金の額などを書く
賃金台帳 払うたびに書く帳簿。誰にいくら払ったかの記録
給与明細 毎月、払った内訳を本人に見せる書類

賃金規程の額より低い額を、本人と個別に約束しても、その部分は無効です。無効になった部分は、規程の額になります(労契法12条)。労契法は労働契約法の略です。 人ごとに賃金を変える時の考え方は、No.04で扱いました。

第1章 賃金規程に必ず書く事

① 賃金の決定・計算・支払の方法 必ず覚える

89条2号は、賃金について4つを書くよう求めています。

払い方には、通貨で・直接本人に・全額を・毎月1回以上・一定の期日に、という5つの決まりがあります(労基法24条)。 割増賃金は、残業や深夜、休日に働いた時に上乗せして払う賃金です。法律の最低の率は、時間外が2割5分(月60時間を超える部分は5割)、法定休日が3割5分、深夜が2割5分です(労基法37条)。 規程には、率を法律の最低以上にして、計算の式まで書きます(モデル就業規則40条)。

この4つに加えて、昇給も書きます。次の②で触れます。

② 昇給 さらっと

昇給は、賃金規程に必ず書く事柄です(89条2号)。モデル就業規則の解説は、昇給の時期など、昇給の条件を定める必要があるとしています。 書き方は、約束になりすぎない形に気をつけます。条文の例と理由は、No.12で扱います。ここでは、昇給の条を置く場所を章立てに入れておけば足ります。

③ 支払の決まりを条文に写す さらっと

支払の決まりは、条文にすると短くなります。みどり訪問介護(架空の会社)の例です。

第12条(賃金の計算期間と支払日)
1 賃金は、毎月15日に締め切り、当月末日に支払う。ただし、支払日が休日に当たるときは、その前日に支払う。

2 計算期間の途中で採用された者又は退職した者の月額の賃金は、その期間の所定労働日数を基準に日割計算して支払う。

第13条(賃金の支払と控除)
1 賃金は、通貨で、直接その全額を本人に支払う。ただし、本人が同意した場合は、本人の指定する金融機関の本人名義の口座に振り込む。

2 次のものは、賃金から控除する。
(1) 源泉所得税 (2) 住民税 (3) 健康保険・厚生年金保険・雇用保険の保険料の本人負担分
(4) 労働者の過半数を代表する者との書面による協定により控除することとしたもの

2項の(4)は、協定がない物を、賃金から引けないことを表しています。 介護報酬が事業所に入るのは、サービスを提供した月の2か月後です。でも賃金は、入金を待たずに毎月払います。

第2章 定めるなら書く事

① 賞与と処遇改善一時金 さらっと

賞与は、法律に払う義務がありません。 でも定めるなら、臨時の賃金等として書きます(89条4号)。賞与の書き方は、No.12で扱います。

処遇改善一時金は、処遇改善加算(介護報酬に上乗せされる、職員の賃金のための加算)を年度内に配り切るための一時金です。No.11で条文にします。 一時金が臨時の賃金等に当たるかは、法律や国の資料に決まりが無いので、次の扱いにします。賞与と同じように、支給の時期と計算の方法まで書いておきます。書いておいて困ることはありません。この形でよいかは、社労士に確かめてください。

② 退職手当 深追いしない

退職手当(退職金)は、設けるなら書く事柄です(89条3号の2)。書くのは、適用される労働者の範囲、決定・計算・支払の方法、支払の時期です。 みどり訪問介護は設けない会社として書きます。設けないなら、規程に「ない」と書く義務はありません。

退職金の設計の細かい所は、この講座では扱いません。 ただし、パート・有期の人(登録ヘルパーなど)を雇う時は、昇給・賞与・退職手当の有無を文書で明示する決まりがあります。これは、パートタイム・有期雇用労働法(以下「パート有期法」)6条の決まりです。規程に書かないことと、雇い入れる時に明示することは別です。

③ 費用の負担 さらっと

制服・名札・靴・仕事用の携帯電話などの費用を、労働者に持たせる定めをするなら、書く事柄です(89条5号)。賃金から引くなら、第13条2項(4)のとおり、労使協定(会社と過半数代表者が書面で結ぶ約束)が要ります。 ここからは法律の決まりではなく、実務のすすめです。会社が持つ物と本人が持つ物を一覧にして、本人に持たせる物は条文に書き、書いていない物は会社が持つ扱いにすると、あとで揉めません。

第3章 みどり訪問介護の賃金規程の章立て

① 条の並べ方 必ず覚える

みどり訪問介護の賃金規程は、次の順に並べます。この講座の No.11・No.12 も、この条の番号で書きます。

条 見出し 法律の扱い モデル就業規則
1 目的・適用範囲 本体からの委任を書く 2条
2 賃金の構成 必ず(決定の方法) 33条
3 基本給 必ず 34条
4 資格手当 必ず(毎月払う賃金) 38条
5 通勤手当 必ず(毎月払う賃金) 36条
6 割増賃金 必ず(率は法律の最低以上) 40条
7 処遇改善手当 必ず(毎月払う賃金) なし
8 処遇改善一時金 臨時の賃金等として書く なし
9 処遇改善手当等の見直し 会社が決める なし
10 昇給 必ず 49条
11 賞与 定めるなら 50条
12 賃金の計算期間と支払日 必ず 46条
13 賃金の支払と控除 必ず 47条
14 欠勤・遅刻・早退の扱い 必ず(計算の方法) 45条
15 休暇・休業の賃金 年休の賃金の払い方は書く 43・44条
16 賃金の非常時払い 労基法25条 48条

15条の年休の賃金は、次のどれで払うかを、就業規則などに定めます(労基法39条9項。モデル就業規則43条の解説)。 平均賃金(直近3か月の賃金総額を、その期間の総日数で割った1日分の額)、通常の賃金、標準報酬月額の30分の1です。

7〜9条は、モデル就業規則にない条です。 処遇改善加算が、介護事業だけの仕組みだからです。この3つが、この賃金規程の特徴になります。

本体の就業規則には、賃金を規程に任せる委任の条を置きます。賃金規程の1条は、それを受ける形で書きます。

就業規則 第○条(賃金)
労働者の賃金に関する事項は、別に定める「賃金規程」による。

賃金規程 第1条(目的・適用範囲)
1 この規程は、みどり訪問介護(以下「会社」という。)の就業規則第○条に基づき、労働者の賃金に関する事項を定める。

2 この規程は、正社員、契約社員及び登録ヘルパーに適用する。

登録ヘルパー用の別規則(パート・有期用)がある場合は、そちらにも同じ委任の条を置きます。

② 条文の書き方の型 さらっと

どの条も、次の3つの型でそろえると、読みやすく、直しやすくなります。

型の中身は、No.11の条文で実際に使います。

③ 加算の要件と賃金規程 さらっと

処遇改善加算の要件の1つ、キャリアパス要件Ⅰは、職位などに応じた任用要件と、それに応じた賃金体系を定めて、書面にして全ての介護職員に周知する要件です。 賃金体系からは、一時金など臨時の物が除かれます。常時雇用が10人未満で就業規則を作る義務がない事業所は、内規でも構いません(令和8年度の国の通知)。

賃金規程を直すたびに、労働者の過半数を代表する人の意見を聴き、労基署へ届け出て、全員に周知します。 手順は、No.14(意見書)・No.15(届出)・No.16(周知)で扱います。賃金を不利益に変える時の考え方は、No.13です。

○ よくある勘違い:「賞与や退職金がない会社は、規程に『ない』と書く」→ 定めをしない制度は、書かなくて構いません
○ 関係する単元:No.01(別規程)/No.04(人ごとの契約)/No.11(手当)/No.12(昇給・賞与)

賃金規程は就業規則の一部で、届出が要る。賃金の決定・計算・支払の方法、締切りと支払日、昇給は必ず書く。賞与・退職手当・費用の負担は、定めるなら書く。みどり訪問介護の16条を、自社の章立ての型にする。

自社の規則づくりシートに書くこと
欄③「賃金規程の条文」に、自社の賃金規程の章立てを、条の見出しの順に書きます。第12条・第13条にあたる、計算期間・支払日と控除の条文も、自社の日付で書きます。
欄⑤「社労士に聞くこと」に、処遇改善一時金を臨時の賃金等として書く形でよいか、本人に持たせる費用の定めがないかを書きます。

確認問題

問1 賃金の決まりを、就業規則の本体とは別の「賃金規程」にしました。届出について、正しいのはどれですか。

問2 就業規則に、制度があってもなくても必ず書く事柄(絶対的必要記載事項)に当たるのは、どれですか。

問3 賞与も退職金も設けていない会社が、賃金規程に書くことについて、正しいのはどれですか。

出典(確認日 2026-11-04):e-Gov(国が法令の原文を公開しているサイト) 労働基準法11条・24条・25条・39条・89条(https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049)、労働契約法12条(https://laws.e-gov.go.jp/law/419AC0000000128)、パートタイム・有期雇用労働法6条(https://laws.e-gov.go.jp/law/405AC0000000076)/厚生労働省「モデル就業規則」令和7年12月版(第6章冒頭・33〜50条とその解説、https://www.mhlw.go.jp/content/001620507.pdf)/厚生労働省「令和8年度の介護職員等処遇改善加算の基本的考え方並びに事務処理手順及び様式例の提示について」老発0313第6号(https://www.mhlw.go.jp/shogu-kaizen/download/6_tsuuchi_kihontekikangaekata_jimushoritejun.pdf)。みどり訪問介護の条文は、モデル就業規則の考え方に沿ってこの講座で作った架空の例です。