就業規則と賃金規程の作り方講座(書く・直す・届け出る・周知する)

区分4 賃金規程を書く★★★

No.11 手当・処遇改善手当・一時金の条文

介護報酬の本体で払う賃金と、処遇改善加算で払う賃金を、規程の上でどう分けて書くかを、条文と別表で見る単元です。賃金を出どころで2つに分ける「2階建て」を、そのまま条文にします。区分4でいちばん手を動かす回で、加算が減った時の条文もここで書きます。
目次
  1. 第0章 前提知識
  2. 第1章 賃金の構成と、1階の条文
  3. 第2章 2階の条文
  4. 第3章 加算が減った時の条文
  5. 第4章 別表の作り方
  6. 確認問題

第0章 前提知識

① 1階と2階 :賃金を、お金の出どころで2つに分ける考え方

訪問介護の収入は、本体(訪問した時間に応じて入る基本報酬)と、加算(本体に率を掛けて上乗せされるお金)に分かれます。 賃金講座(https://course-houmon-chingin.pages.dev)のNo.07は、賃金も出どころで2つに分けます。この呼び名は、その講座で使っている物で、公式の用語ではありません。

処遇改善加算は、介護職員などの賃金を上げるために、介護報酬に上乗せされる加算です。国は、加算額以上の賃金改善を求めています。 加算を基本給に混ぜる使い方も認められていて、国は基本給での改善が望ましいとしています。この単元は、それでも「出どころで分ける」と決めた形を、条文にする回です。

用語を2つ、先に分けておきます。

② 別表 :条文とは別に付ける、金額や等級の表

賃金規程の条文には決まりだけを書き、金額・等級・号俸は表にして末尾に付けます。この表が別表です。 号俸は、賃金表の1段のことです。1号俸上がると、基本給が○円上がる、と決めておきます。 別表も、賃金規程の一部です。

③ 似た言葉との違い

言葉 何のことか
手当 条件に応じて、毎月、基本給に足して払う額
処遇改善手当 処遇改善加算を原資にして、毎月払う手当
処遇改善一時金 毎月の手当で配り切れなかった加算を、年度内に払う一時金
賞与 会社の業績などで決める一時金。No.12で扱います

この単元の金額は全部架空です。 条文の番号は、No.10で決めた賃金規程の章立てに合わせています。

第1章 賃金の構成と、1階の条文

① 賃金の構成の条 必ず覚える

最初に、賃金の項目を並べる条を置きます。ここで1階と2階を分けて書くのが、この単元の中心です。 みどり訪問介護(架空の会社)の例です。

第2条(賃金の構成)
1 賃金の構成は、次のとおりとする。
(1) 基本給 (2) 資格手当 (3) 通勤手当 (4) 割増賃金
(5) 処遇改善手当 (6) 処遇改善一時金

2 前項第1号から第4号までの賃金(以下「基本賃金」という。)は、介護職員等処遇改善加算(以下「処遇改善加算」という。)の算定の有無及び加算額にかかわらず、この規程に従って支給する。

3 第1項第5号及び第6号の賃金(以下「処遇改善賃金」という。)は、会社が処遇改善加算を算定していることを前提に、その加算額を原資として支給する。

処遇改善手当と処遇改善一時金は、基本給や資格手当とは別の項目名にして、別の条で書きます。 理由は3つあります。

2項は「加算がなくても払う」という会社の約束で、3項は「加算が前提」という条件です。出どころの違いを、項目名だけでなく条文にも書きます。

② 基本給と資格手当(第3条・第4条) さらっと

基本給は、等級(役割の段)と号俸で決めます。 等級ごとの任用要件(その段に就く条件)は、別表に書きます。

第3条(基本給)
1 会社は、職務の内容と経験に応じて、初級・中級・上級の3つの等級を置く。等級ごとの任用要件は、別表第1に定める。

2 正社員及び契約社員の基本給は月給とし、等級及び号俸に応じ、別表第1に定める額とする。

3 登録ヘルパーの基本給は時給とし、等級及び号俸に応じ、別表第2に定める額とする。

4 等級及び号俸は、本人の職務の内容、経験及び勤務成績を考慮して、会社が決定し、本人に通知する。

第4条(資格手当)
1 資格手当は、次の資格を持ち、その資格を生かす職務に就いている労働者に、毎月支給する。
(1) 介護福祉士 (2) 実務者研修修了者 (3) 介護職員初任者研修修了者

2 資格手当の額は、別表第3に定める。登録ヘルパーの資格手当は、時間額とし、稼働した時間に応じて支給する。

3 資格を取得した者は、資格を証明する書類を会社に提出する。資格手当は、提出した日の属する月の翌月分から支給する。

資格は資格手当で報い、等級は役割で決めます。

③ 通勤手当と割増賃金(第5条・第6条) さらっと

通勤手当と割増賃金も、1階です。短い条文で足ります。

第5条(通勤手当)
1 通勤手当は、通勤に要する費用の実費を、毎月支給する。ただし、会社が定める限度額を超える部分は支給しない。

2 登録ヘルパーの通勤手当は、出勤した日数に応じて支給する。

割増賃金は、残業や深夜、休日に働いた時に、通常の賃金に上乗せして払う賃金です。 率は、法律の最低(労基法37条)以上にします。

第6条(割増賃金)
1 会社は、法定労働時間を超える労働、午後10時から午前5時までの労働又は法定休日の労働をさせたときは、法律に定める率以上の割増賃金を支給する。
 法定労働時間を超える労働 2割5分(月60時間を超える部分は5割)
 法定休日の労働 3割5分 / 深夜の労働 2割5分

2 割増賃金の計算の基礎となる賃金は、基本給、資格手当及び処遇改善手当とする。

法定休日は、法律が与えなければならない週1日(または4週4日)の休日のことです。会社が決めた所定休日とは別です。 2項で通勤手当を外すのは、労基法の施行規則が、通勤手当などを計算の基礎から除くと決めているからです。処遇改善手当は、除かれる手当に入らないので、基礎に入れます。

第2章 2階の条文

① 処遇改善手当(第7条) さらっと

処遇改善手当は、毎月払う手当です。

第7条(処遇改善手当)
1 処遇改善手当は、会社が処遇改善加算を算定している月について、正社員、契約社員及び登録ヘルパーに、毎月支給する。

2 処遇改善手当の額は、別表第3に定める。正社員及び契約社員は月額、登録ヘルパーは稼働した時間に応じた時間額とする。

3 処遇改善手当は、基本給とは別の項目として、給与明細及び賃金台帳に記載する。

加算には月額賃金改善要件があります。加算の一部を、基本給か、決まって毎月払う手当に充てることを求める要件です。 そのため、毎月の支給日と条件を条文に書き、会社の判断で払う月と払わない月を作らない書き方にします。要件に足りる書き方かが不安なら、指定権者(事業所を指定した市や都道府県)か、社労士(社会保険労務士)に確かめてください。

② 処遇改善一時金(第8条) さらっと

加算額の増減は、年度末の処遇改善一時金で受ける形にします。毎月の処遇改善手当は、確実に払い続けられる額にします。

第8条(処遇改善一時金)
1 会社は、各年度(4月1日から翌年3月31日まで)について、処遇改善加算の算定額に基づき会社が定める賃金改善の額が、その年度に支給した処遇改善手当の合計額を上回るときは、その差額の範囲内で、処遇改善一時金を支給する。

2 処遇改善一時金は、毎年3月の賃金支払日に支給する。年度の終了後に加算額が確定し、不足が生じたときは、会社は、速やかに追加して支給する。

3 処遇改善一時金の額は、等級及び勤務の状況(登録ヘルパーは稼働時間)に応じ、会社が毎年度定める。

4 処遇改善一時金は、賞与(第11条)とは別に支給し、給与明細及び賃金台帳に別の項目として記載する。

5 処遇改善一時金の支給日に在籍しない者にも、在籍中の勤務実績に応じた額を、第2項の支給日に支給する。

1項の差額は、加算額が増えれば増え、減れば減ります。 どれくらいの減り方まで受け止められるかを、架空の事業所で計算します。

本体(月) 年の加算額 賃金に回せる額(÷1.15) 毎月の手当(年) 処遇改善一時金
190万円(減った) 190×1.1×27%×12=677.2万円 588.8万円 288.0万円 588.8-288.0=300.8万円
80万円(6割減った) 80×1.1×27%×12=285.1万円 247.9万円 288.0万円 0円(288.0-247.9=40.1万円が会社の持ち出し)

本体が減っても、一時金を減らすだけで、毎月の手当も基本給も動かさずに済みます。 本体が月80万円まで減ると、一時金をゼロにしても手当が賃金に回せる額を超えます。毎月の手当は、本体が大きく減っても一時金をゼロにすれば払える額に収めておく、というのが設計の目安です。この例では、本体が月約93万円までは一時金で受け止められます。

年度の途中で辞めた人の一時金は、法律や国の資料に決まりが無いので、次の扱いにします。 5項のとおり、支給日に在籍しない人にも、在籍中の勤務実績に応じて支給します。一時金は加算を年度内に配り切る仕組みなので、辞めた人を外すと配り切れなくなるおそれがあるからです。この扱いでよいかは、指定権者か社労士に確かめてください。

第3章 加算が減った時の条文

① 見直しの条(第9条) 必ず覚える

処遇改善加算は、改定や売上の変動で増減します。 その時のために、2階を見直す条を、先に書いておきます。

第9条(処遇改善手当等の見直し)
1 処遇改善手当及び処遇改善一時金は、会社が処遇改善加算を算定していることを前提として支給する。

2 会社は、処遇改善加算の区分又は加算額が変わったとき、その他処遇改善加算の制度に変更があったときは、第7条及び第8条に定める処遇改善賃金の額又は支給の方法を見直すことがある。

3 前項の見直しにより、基本給及び資格手当を、この見直しを理由に減額することはない。

4 会社は、第2項の見直しをするときは、見直しの内容、理由及び実施する日を、実施する日の前までに労働者に説明し、この規程を変更する手続をとる。

1項は、2階が「加算を算定していることが前提」だと、最初から本人に示す部分です。 3項は、見直しが及ぶのは2階だけで、基本給と資格手当には及ばないと書く部分で、基本給を下げずに済む設計を条文にしています。割増賃金は、3項に含めません。基本給などが決まれば、法律の率で自動的に決まる賃金だからです。4項は、下げる時の手順を先に決めておく部分です。

3項は、会社が自分に課す約束です。この約束を条文に残してよいかは、社労士と相談してください。

② 条文に書いても残る問題 さらっと

第9条を書いても、手当を下げることが自由になるわけではありません。 賃金を、働く人に不利になる形で変えることを、不利益変更と言います。 労契法(労働契約法)9条は、合意なしに就業規則を変えて不利益に変えることを、原則できないとしています。例外は、変更後の規程を周知し、変更が合理的な場合です(労契法10条)。

そのため、下げる時も、本人への説明・意見聴取・届出・周知の手順を踏み、条文だけに頼りません。不利益変更の考え方は、No.13で扱います。 加算の側にも手続があります。賃金水準を下げる時は、特別事情届出書(加算を受けながら賃金水準を下げる時に、役所へ出す届出書)が要ります。

第4章 別表の作り方

① 本文に書く事と、別表に出す事 さらっと

条文と別表は、役目で分けます。

分ける理由は、ベースアップ(賃金表の書き換えによる、全員の一律の引上げ)の時に、条文を触らず、表だけ差し替えられるからです。 別表も賃金規程の一部なので、金額を直す時も、意見を聴く・届け出る・周知する手続が要ります(No.14〜16で扱います)。

もう1つ、条の見出しと給与明細の項目名は、そろえます。 賃金台帳(賃金を払うたびに、誰にいくら払ったかを書く帳簿)から、「処遇改善手当」「処遇改善一時金」の合計を取り出せば足ります。実績報告に使う賃金改善の額が、それで出るからです。

② 別表の見本 さらっと

みどり訪問介護の別表です。金額は全部架空です。

別表第1(正社員・契約社員の月給と等級)

等級 任用要件 1号俸の月給 1号俸ごとの加算 号俸の上限
初級 入社時から 170,000円 2,000円 10号俸(188,000円)
中級 初級で勤続3年以上、かつ年間の研修計画を終えていること 180,000円 2,000円 15号俸(208,000円)
上級(主任) 中級で勤続5年以上、他の職員への助言を担い、面談で会社が認めたこと 210,000円 2,000円 16号俸(240,000円)

備考:付く手当は、全等級に資格手当と処遇改善手当。

別表第2(登録ヘルパーの時給)

等級 1号俸の時給 1号俸ごとの加算 号俸の上限
初級 1,500円 20円 10号俸(1,680円)
中級 1,600円 20円 15号俸(1,880円)
上級 1,700円 20円 16号俸(2,000円)

備考:等級の任用要件は別表第1と同じ。いずれの時給も、最低賃金を下回らない額にする。

別表第3(手当)

手当 区分 正社員・契約社員(月額) 登録ヘルパー(時間額)
資格手当 介護福祉士 10,000円 60円
資格手当 実務者研修修了者 6,000円 40円
資格手当 介護職員初任者研修修了者 3,000円 20円
処遇改善手当 初級 50,000円 300円
処遇改善手当 中級 60,000円 300円
処遇改善手当 上級 70,000円 300円

別表第1の備考のとおり、任用要件の欄に、基本給の幅と付く手当も書き添えると、等級ごとの賃金の姿が1枚で分かります。 中級6号俸の190,000円に、資格手当10,000円と処遇改善手当60,000円を足すと260,000円で、賃金講座のNo.07の常勤の明細と同じです。

○ よくある勘違い:「別表の金額を直すだけなら、規程を変える手続は要らない」→ 別表も賃金規程の一部で、直す時は意見を聴く・届け出る・周知するが要ります
○ 関係する単元:No.10(賃金規程の章立て)/No.12(昇給・賞与)/No.13(不利益変更)

1階(基本給・資格手当・通勤手当・割増賃金)と2階(処遇改善手当・処遇改善一時金)は、別の条・別の項目名で書く。 見直しの条(第9条)は、2階にだけ及ぶと書き、手続も決めておく。金額・等級は別表に出し、別表を直す時も規程を変える手続をとる。

自社の規則づくりシートに書くこと
欄③「賃金規程の条文」に、第2条(構成)〜第9条にあたる条文を、自社の項目名で書き、別表(等級・号俸・手当)を1枚付けます。
欄⑤「社労士に聞くこと」に、次の3つを書きます。
・見直しの条(3項の約束を残してよいか)
・処遇改善手当が「決まって毎月」に当たる書き方か
・年度の途中で辞めた人の一時金(第8条5項の扱い)

確認問題

問1 賃金規程で、基本給や資格手当と別の条・別の項目名で書くのは、次のうちどれですか。

問2 規程の第9条に「処遇改善加算の制度に変更があったときは、2階の額を見直すことがある」と書いた会社が、加算が減ったので処遇改善手当を下げます。正しいのは、次のうちどれですか。

問3 別表第3の処遇改善手当の金額を、ベースアップで引き上げます。正しいのは、次のうちどれですか。

出典(確認日 2026-11-04):厚生労働省「令和8年度の介護職員等処遇改善加算の基本的考え方並びに事務処理手順及び様式例の提示について」老発0313第6号(https://www.mhlw.go.jp/shogu-kaizen/download/6_tsuuchi_kihontekikangaekata_jimushoritejun.pdf)/令和8年度Q&A第1版 介護保険最新情報Vol.1479(https://www.city.shinjuku.lg.jp/content/000451055.pdf、新宿区に掲載された写し)/厚生労働省「モデル就業規則」令和7年12月版(第6章、https://www.mhlw.go.jp/content/001620507.pdf)/e-Gov(国が法令の原文を公開しているサイト) 労働契約法9条・10条(https://laws.e-gov.go.jp/law/419AC0000000128)、労働基準法35条・37条(https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049)、労働基準法施行規則21条(https://laws.e-gov.go.jp/law/322M40000100023)。みどり訪問介護の条文と別表の金額は、この講座で作った架空の例です。