就業規則と賃金規程の作り方講座(書く・直す・届け出る・周知する)
区分5 決めてから効かせるまで★★★周知とは、労働者が就業規則の内容を、知ろうと思えばいつでも知れる状態にしておくことです。 実際に全員が読んだかどうかは問われません。
労契法(労働契約法)7条の周知も、同じ考え方です。 「いつでも存在と内容を知り得るようにしておくこと」とされ、実際に知っているかは問いません。
| 段階 | 何をするか | それだけで効くか |
|---|---|---|
| 作成 | 規則の案をつくる | 効かない |
| 意見聴取 | 過半数代表者の意見を聴く(No.14) | 効かない |
| 届出 | 労基署に出す(No.15) | 効力の条件ではない(古い裁判例) |
| 周知 | 労働者に知らせる | 周知した日以降に効く |
厚労省のモデル就業規則は、作成したり意見を聴いたりしただけでは効力は生じず、周知された時期以降に効力が生じる、としています。 施行期日(いつから適用するか)を決めていれば、その日から。決めていなければ、通常は周知された日から効きます。
就業規則と、36協定(残業をさせる時に結ぶ労使協定)・1か月変形の協定などの労使協定は、次のどれか1つで周知します(労基法106条、労基則52条の2)。 労基則は、労基法の細かい決まりを書いた厚生労働省の命令(省令)です。
どれか1つを満たせば足ります。 ただし、人によって当てはまる方法が違います。事務所に毎日来る人には1でも足りますが、ほとんど来ない人には1だけでは届きません。
厚労省の介護労働者向けのパンフ(2017年)は、次のように書いています。 労働者から請求があった時に就業規則を見せる、といった、必要な時に容易に確認できない方法は、周知にならない、という内容です。 「社長に言えば見られる」「事務所の棚に入っているので、見たい人は言ってください」では足りません。
どれかの方法を選んで、ふだんから見られる状態にしておきます。
効力の面では、周知していないと、規則を根拠にした扱いが認められなくなるおそれがあります。 就業規則が労働者を拘束するには、周知が必要です。最高裁のフジ興産事件(平成15年10月10日)の判決の考え方で、厚労省の「労働契約法のあらまし」に載っています。
罰則の面では、労基法106条の違反は30万円以下の罰金の対象です(労基法120条)。
新しく人を雇う時は、契約を結ぶ時までに周知します。契約を結ぶ同じ日に渡すのでもかまいません。 入社日に渡す、では間に合わないことがあります。
訪問介護の通達(平成16年8月27日 基発第0827001号)は、書面の交付が望ましいとしています。 対象は、事業場に赴く機会の少ない非定型的パートタイムヘルパー等への周知です。 通達とは、厚生労働省が労基署などに出す、法律の解釈や運用の文書です。事業場とは、場所ごとの職場を1つと数える、労基法の単位です。 非定型的パートタイムヘルパーとは、毎日の勤務時間や日が決まっておらず、利用者の都合で勤務が組まれる、パートの訪問介護員のことです。
直行直帰で、月に何回も事務所に来ない登録ヘルパーに、事務所の壁の掲示だけでは、周知したことになりません。 次のように分けて考えます。
| 相手 | 渡し方の例 |
|---|---|
| 毎日のように事務所に来る正社員 | 事務所で掲示・備え付け、または書面の交付 |
| 事務所に来ない登録ヘルパー | 書面の交付(手渡し・郵送) |
3つ目の方法(機器を置く)は、パソコンやスマホで見られれば足りるのか、迷う所です。 登録ヘルパーには、書面を渡します。画面で見られるようにするのは、書面の交付に重ねる形にします。この形でよいかは、社労士か労基署に確認してください。
ここからは法律の決まりではなく、実務のすすめです。 周知の記録を残しておくと、労基署の調査や、労働者との行き違いが起きた時に、周知したと言える裏付けになります。
残す記録は、次のとおりです。
| 記録する物 | 内容 |
|---|---|
| 渡した記録 | 渡した日・方法(手渡し・郵送)・渡した相手・どの版か(改正日) |
| 受け取りの記録 | 受領の署名や、「受け取りました」の返信 |
| 掲示・備え付けの記録 | 掲示した日・場所の写真・備え付けた場所 |
改正のたびに、同じ記録を残します。 「全員分」が揃っているかが大事なので、名簿の横に渡した日を書く一覧にしておくと、抜けが見えます。
受け取りの署名を拒む人がいても、渡した事実は残ります。署名がなくても、渡した日と方法を会社の控えに書いておきます。
訪問介護の通達は、就業場所や業務が勤務表で決まる場合、契約の時に、適用される就業規則の関係条項名を網羅的に示し、契約時の勤務表を示すことで足りる、としています。 雇う時の通知書で規則の条項名を示し、契約を結ぶ時までに規則を渡す、という流れにすると、周知と労働条件の明示が1回で済みます。
○ よくある勘違い:事務所に就業規則を置いてあれば、全員に周知したことになる → ほとんど来ない人には届かず、請求されたら見せる方式は周知にならない
○ 関係する単元:No.14(意見書)/No.15(協定も周知が要る)
ここまでの内容を、順に並べると次の10段です。 右の欄は、自社で書き込みます。「誰が・いつまでに」を決めると、卒業課題の「段取り表」になります。 欄には、みどり訪問介護(架空の会社。代表と事務長がいる12人)が、施行日を2027年4月1日と決めた場合の記入例を入れてあります。
| 段 | やること | 根拠 | 自社で書く(誰が・いつまでに)みどり訪問介護の例 |
|---|---|---|---|
| 1 | 届出の義務を数える:正社員・登録ヘルパー・短時間・有期・事務員を含めて、事業場ごとに常時10人以上か。10人未満でも作ることが望まれる | 労基法89条、労基則49条 | 代表が、2026年11月20日までに。正社員4人・契約社員1人・登録ヘルパー7人で12人 |
| 2 | 規則の組み合わせを決める:本体+パート・有期用の別規則(登録ヘルパーを含む)+賃金規程+育児・介護休業規程。本体に「別に定める」の条を置く | No.01 | 代表が、11月30日までに |
| 3 | 案を作る:モデル就業規則を土台に、必ず書く事項を入れ、実態(シフト・移動時間・キャンセル時)に合わせる。法令に反しない | No.02、No.05〜12 | 代表と事務長が、2027年1月15日までに |
| 4 | 変形労働時間制と時間外の段取りを決める:変形は就業規則か協定か。残業がありうるなら36協定。協定届は別の届出 | No.15 | 事務長が、1月15日までに |
| 5 | 過半数代表者(労働者の過半数を代表する人)を選ぶ:管理監督者(経営者と一体の立場の人)でない人を、目的を伝えた投票・挙手で選ぶ。母数に登録ヘルパーを含める | 労基則6条の2、No.14 | 事務長が進行役で、2月上旬に全員の投票で。事務長は候補から外す |
| 6 | 意見を聴く:案を示して意見書をもらう。同意は要らない。不利益な変更なら、理由と内容の合理性を説明する | 労基法90条、No.13 | 代表が、2月15日に案を渡し、2月25日までに意見書をもらう |
| 7 | 届け出る:就業規則(変更)届+意見書+就業規則本体(別規程も)。窓口は2部、電子申請も可。協定届は別に出す | No.15 | 代表が、3月5日までに窓口で |
| 8 | 周知する:掲示・備え付け、書面の交付、機器のどれか。登録ヘルパーには書面の交付。施行日を決め、周知した日以降に効かせる | 労基則52条の2、No.16 | 事務長が、3月15日までに。事務所に掲示し、登録ヘルパー7人には郵送。渡した日を一覧に書く |
| 9 | 個別の契約と合わせる:労働条件通知書が就業規則を下回っていないか確かめる。更新のたびに明示し直す | 労契法12条、No.04 | 事務長が、3月31日までに全員分を確認 |
| 10 | 変える時は3〜8をやり直す:法改正や制度変更のたびに、意見聴取・届出・周知をやる。変更届に新旧対照表を付ける | No.13 | 代表が、法改正や制度変更のたびに |
この表は、公式の資料(労基法89条・90条・106条、労基則6条の2・49条・52条の2、モデル就業規則のはじめに)に沿って並べたものです。 段8の周知のあとに、段9(個別の契約とそろえる)と段10(変える時のやり直し)が続きます。施行日は、段8の周知の日より後に設定します。
「いつまでに」を決める時は、施行日から逆算します。
ここからは法律の決まりではなく、実務のすすめです。社労士に仕上げの確認を頼む場合は、次の2回を、頼む日として組み込みます。
周知は、掲示・書面の交付・機器のどれか。ほとんど来ない登録ヘルパーには書面を渡す。「請求されたら見せる」は周知ではない。効くのは周知の日以降。
自社の規則づくりシートに書くこと
○ 欄④(意見書・届出・周知の段取り):上の10段の表を自社用に書き写し、各段の「誰が・いつまでに」と、登録ヘルパーに書面を渡す方法・渡した日を記録する一覧の形
○ 欄⑤(社労士に聞くこと):機器で周知する方法が当てはまるか/届出に添える範囲(新旧対照表だけでよいか)
問1 みどり訪問介護が就業規則を改正し、事務所の壁に掲示しました。登録ヘルパーは直行直帰で、月に1回も事務所に来ない人もいます。本文に沿った対応として適切なのは?
問2 就業規則を変えて、意見を聴き、労基署に届け出ました。まだ労働者には知らせていません。この規則はいつから効力を持つでしょうか。
問3 周知の記録の残し方について、本文の説明に合うのは?
出典:労働基準法(https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049)89条・90条・106条・120条/労働基準法施行規則(https://laws.e-gov.go.jp/law/322M40000100023)6条の2・49条・52条の2/労働契約法(https://laws.e-gov.go.jp/law/419AC0000000128)7条・12条/厚生労働省「モデル就業規則」令和7年12月版「はじめに」3・4(https://www.mhlw.go.jp/content/001620507.pdf)/厚生労働省「労働契約法のあらまし」(https://www.mhlw.go.jp/content/001234797.pdf)/「訪問介護労働者の法定労働条件の確保について」平成16年8月27日基発第0827001号(https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb5448&dataType=1&pageNo=1)/厚生労働省「介護労働者の労働条件の確保・改善のポイント」2017年(https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000064728.pdf)。確認日 2026-11-04。労基法は2026年7月17日施行、労基則は2026年4月1日施行、労契法は2020年4月1日施行の版で確認。